4月19日 百妖歌七星
最初に異変に気づいたのは、陰陽師の名家に生まれた結城さんだった。高校三年生に進級して、あと一ヶ月で陽陰学園の生徒会の任務が終わる──そんな時に教室から空を見ていた彼がぽつりと漏らした言葉は、わたくしと白院さんを動揺させた。
「百鬼夜行……!」
そうだと言われて納得する。それくらい、あり得ない数の妖怪が溢れ──森の奥からこちら側に攻めてくる気配がする。
「桐也! 放送を! 町中に!」
「わ、わかった! 絶対に死ぬなよ、ナミダちゃん! 歌七星!」
白院さんは今にも泣きそうな表情で教室から飛び出していった。結城さんは陰陽師、わたくしは半妖、まだ緊急事態に気づいていないクラスメイトの中の誰よりも戦って死ぬ確率が高いから──そんな表情をしてくださったのでしょう。
「結城さん、三人を集めます!」
瞬間に教室に入ってきたのは、同じ生徒会でわたくしの大切な三つ子の妹──鈴歌、熾夏、朱亜だった。
「行きますよ!」
頷きあって、五人で屋上を目指す。階段を駆け上がっていると、すぐに白院さんの放送が聞こえてきた。
『緊急避難命令! 緊急避難命令!』
学校から、そして住宅街から、白院さんの声が聞こえてくる。
『町民は皆、陽陰学園生徒会と《十八名家》の指示に従って地下に避難せよっ! これは……コード・ゼロ! コード・ゼロ!』
これで、町中にいる陰陽師と半妖と──《十八名家》に伝わった。誰も経験したことのない百鬼夜行、それに今すぐ立ち向かえと言われた《十八名家》の人たちは絶対に戦力にならない。そんな彼らに代わって、わたくしたちが戦力にならなければならない。
屋上に飛び出して、一反木綿に変化した鈴歌の背中に全員で乗った。鈴歌が飛び立つ。陽陰学園は結界が張られているから無事だったけれど、その外に出た瞬間に妖怪たちが襲いかかってきた。
「わたくしがやります!」
わたくしは人魚の半妖。水の槍を生み出して集まった妖怪すべてを貫く。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」
すぐに結城さんが九字を切った。頼もしい人だ、同じ生徒会で良かったと心から思う。
陽陰町の南側から飛び立ったわたくしたちは、真っ先に目の前に広がる住宅街を目指していた。住宅街には結界がない。自分たちのことが見えない人たちを妖怪が襲っているところは見たことがないけれど、一般の人々からは犠牲者を出してはならない──それが《十八名家》の掟だから、わたくしたちは陽陰学園を捨てなければならなかった。




