4月19日 百妖麻露
少しだけ何かが違う一日が始まった。そう思っていたが気にしなかった。
会社がある人通りが少なかったはずの細道。その片側に停まっている車、奥には車、そして後ろから車が来ていて自分以外の歩行者もいて。普段会社にいない先輩からお昼に誘われて。帰りも人や車があまりにも多くて、夕日の橙色と濁った雲のせいなのか世界がどこか黄色に見えて気持ち悪くて、何かが起きる、そう思った瞬間に瘴気が滲んだ。
「は……」
声が漏れる。霊感がある人だけではなく、なんの力のない人々も立ち止まって空を見ていた。雲が消え去った空を彩っていたのは毒々しい赤で、それを雲のように覆い隠し始めたのが瘴気で私はすぐに妖怪の出現を悟る。
鞄と傘を地面に投げた。機密情報や顧客情報は入っていないが、個人情報が入っているそれを捨てて人が少ない場所を目指した。
私は雪女。半妖たちが集って暮らす百妖家の長女、麻露。
ジャケットのポケットに入れていたスマホを取り出し変化する。電話をかけた相手は妹の依檻で、依檻も世界の異変に気づいていた。
『もしもしシロ姉?! 今どこ!』
「オフィス街地区だ。そっちは大学か? 真璃絵は?」
『そう! 今から合流するとこ!』
「わかった。そっちは二人でなんとかしてくれ、私はしばらくここにいる」
『一人で大丈夫なの?! よくわかんないけど今日のはちょっとおかしいでしょ?! みんな瘴気に気づいてる感じがする! これで妖怪が来たらどうなるの?!』
「落ち着け依檻。取り乱すな。私たちが折れたら本当の本当にこの世の終わりだぞ」
『そ、そうよねごめん! しっかりする!』
「あぁ。何かあったらすぐに連絡してくれ」
バッテリーがなくなるというわけではなかったが、無駄遣いはできない。そんな雰囲気を肌で感じていた。じっとしていると鳥肌が立ってくる。何故だ。意味がわからない。ビルの屋根の上まで駆け上がって、初めて世界の今を知る。
「なっ──?!」
ぽつぽつと、まばらだったが町全体に妖怪が出現していた。こんな黄昏時は知らない、異常事態だ。恐ろしすぎる。
『緊急避難命令! 緊急避難命令!』
町中に点在するスピーカーから切羽詰まった桐也の声が聞こえてきた。
『町民は皆、陽陰学園生徒会と《十八名家》の指示に従って地下に避難せよっ! これは……コード・ゼロ! コード・ゼロ!』
遠い遠い昔、あの人──朝日さんからその意味を教わったことがある。
「百鬼夜行……!」
それは、終わりを告げる暗号だった。




