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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
95/201

4月18日  芦屋真菊

 名前の由来を両親に聞くという宿題が出た。聞こうと思ったら「今日は妖怪が騒がしいから後にして」と言われた。

 出ていった二人の後を追いかける。終わったらすぐに答えを聞くつもりだった。いつもの森の中、いつも通りではないあまりにも多くの妖怪に囲まれて、二人も二人の式神しきがみも頑張ったけれど、勝てそうになくて。


「カグラ! 真菊まぎくを……真菊だけは!」


 父さんの式神のカグラは父さんに従った。どうしてなの? どうして自分の主を見捨てて、私なんかを助けようとするの?


 二人の断末魔が森の中に響き渡る。同時にカグラが血を吐いて倒れた。妖怪は誰も死んでいない。私も死ぬ。もうそれでいいからこんな世界は早く終わって。



りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」



 私の世界は終わらなかった。突然現れた陰陽師おんみょうじが今にも泣きそうな表情で私を救ったから。

 その人が憐れんでいたのは私の両親ではなくて、妖怪で。「なんでそんな顔をするの」と詰ったら、その人は「妖怪が人を恨みながら亡くなったから」と答えた。


 その人は、なんの罪もない妖怪を無差別に殺していることが許せないらしい。


 許せないのは私だって同じだった。けれど、この憎しみが妖怪を殺し続けたせいで生まれてしまった憎しみならば、悪いのは妖怪ではなくて私だ。

 その人のように妖怪を愛していたら、両親のことを喪わずに済んだのだろうか。悲しくて悲しくて仕方がなくて涙が溢れる。その人から差し伸ばされた手を掴む。


「君の名前は? 今いくつ?」


「真菊、十歳……」


「ッ。そうか、結希ゆうきと同い年なのか……」


 その子が誰なのかなんとなく察した。けれど私は何も聞かなかった。


「離さないで!」


 ただそれだけを願っていた。妖怪を殺す親戚には引き取られたくない。この人がいいと願っていた。


「わかった。離さない。けれど一瞬だけいいかな? 君の両親を弔わないと」


 離れていくその手で近くに咲いていた花を手折り、両親の体の上に載せてくれるその人のことがいつの間にか大好きになっていた。


「今日宿題で、名前の由来を聞くっていうのが出たの。私、聞けなかった……」


 その後悔を一生抱えて生きていくのだと感じた。そんな日々に耐えられそうになくて、目頭がまた熱くなる。


「菊には邪気を払うっていう意味があるからね。暗闇のない場所では蕾すらできない花だから、この二人は絶対に君の幸せを願ってそう名付けたはずだよ」


 一生分の涙を流した。もう二度と泣けないと思うほどの涙だった。

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