4月14日 芦屋雅臣
誰よりも自由に振る舞う朝日のことが、初めて会った時から羨ましかった。
俺が生まれた家は芦屋家で、陰陽師の名家と言われている。だが、どの家よりも目立たないようにひっそりと生きることを一族のすべての人間から強要される窮屈な家だった。
朝日が生まれた家は間宮家で、陰陽師の裏切り者と呼ばれている。陰陽師や人々を裏切ったのは千年前に存在していた彼女の御先祖様なのに、陰陽師の人間は今でも間宮家の人間に罪を償えと強要していた。
なのに何故朝日はあんなにも自由なのだろう。ずっと見ていても求めていた答えは出てこなかった。俺よりも一つ年上なのにそのことを感じさせないような彼女の愛らしさは、ずっと見ていても飽きなかった。
そんな彼女との見合い話が出てきた時、自分は夢を見ているのかと思った。つき合って結婚できたわけではないのに、舞い上がってしまった。
本当につき合って結婚して、子供ができた時は幸せすぎて悪いことが起きるのではないかと思った。悪いことは起きなかったが、俺たちの日々は徐々にすれ違っていった。このボタンは最初からかけ違えていたのだ。
俺は朝日が積極的に妖怪を殺す人であることを最初から知っていた。
朝日は俺が妖怪の声が聞こえる芦屋家の人間であることを最初から知っていた。
朝日、妖怪を殺さないでくれ。妖怪の断末魔を聞くことが苦しいんだ。
雅臣君、わかってよ。妖怪を殺さないと私たちの罪は消えないの。
朝日、妖怪を殺さないでくれ。妖怪の様子がおかしいんだ。
雅臣君、止めないで。この罪を結希君にも背負わせたくない。
朝日の気持ちは理解できる。彼女はそういう家に生まれたのだから。そして、俺はこういう家に生まれたのだから。
俺は言葉を飲み込んだ。俺の嫁になったのに、未だに御先祖様の罪がどうこうと言い続ける陰陽師の言葉に傷ついた朝日を結希と姪の美歩ごと抱き締めた。
朝日、結希、美歩、愛しているよ。
俺の家族は誰も何も悪くない。そして、同じくらい妖怪も──妹の玉依も悪くない。悪いのは千年前も今も人だ。あまりにも惨たらしい人々が世界を壊すのだ。
隠居した御先祖様の気持ちも理解できた。理解できたからこそ、この世界を捨ててしまいたかった。
離婚届を出すと朝日は何も言わずに署名した。言葉に傷ついてきた俺たちの間には言葉は不要だったらしい。
「妖怪は殺すべきだと思う? それとも──救うべきだと思う?」
念の為にそう尋ねた。答えは返ってこなかった。




