4月1日 三善猿秋
もう二度と式神と共に在りたくはない。式神を亡くした痛みはずっと胸の中にあって、消えなくて、この痛みと共に死ねるならそれでいいと思ってて。
そんな俺を変えたのは驚くような早さで成長する弟子のステラだった。
一歳の時に引き取って八歳になったステラは祓魔師の家系だからか陰陽師の素質に恵まれており、俺が教えたことならばなんでも吸収して自分のものにする。
そんなステラに未来を見た。彼女に教えたいことは山ほどあるが、ステラがこのまま陰陽師になるならば──俺の時のように式神が必須になる。式神なき陰陽師に待ち受けているのは凄惨な死だ。
だから俺は、ステラに贈る。今から生み出す俺の式神をステラを支える矛と盾として。
ステラの式神として育てるという理由ならば、この痛みも許してくれそうな気がした。
「──我が元に馳せ参じたまえ、イヌマル」
息を吸い込んで、ステラの式神となるイヌマルを召喚する。発生した突風を我慢していると、目の前に白い塊が現れた。
いや、よく見ると人の形をしている。それほどまでにイヌマルが真っ白なのだ。
すべてが白い式神は珍しい。白を基調とする式神はいるにはいるが、全員が他の色も持っている。
眩しくて仕方がないくらいに乳白色の髪は両端だけが短くて、一つに結ばれている部分だけが尾のように長く伸びている。
微妙に違うがその白には見覚えがあって、ステラの月白色の髪を思い出す。あぁ、そうか。この〝珍しい〟はステラの〝珍しい〟なのか。
鶴が羽根を休めているような美しい真っ白な着物にようやく金の色を見つけることができたが、それは全身に巻つけられた鎖だった。首輪のような金属製のチョーカーでさえも目を惹いて、彼はなんなのだろうと思う。
これがステラなのだろうか。頭にも鎖の輪っかが天使の輪のように乗っかっており、長方形の小物が垂れた犬耳のようにぶら下がっている。
「──る、イヌマル」
とりあえず声をかけた。
「イ、ヌ、マ、ル」
とりあえず触ってみた。
「……ぁっ」
イヌマルがやっと呼吸をしてくれた。
「あはは。まだ寝惚けているのかな」
「…………」
「目を覚まして、イヌマル」
「────」
そうして開かれた目は金にも見える黄色い瞳だった。
「やっと起きた」
平静を装ってそう告げる。それは俺たち三善家の瞳だったから。
「初めまして。俺は三善猿秋、お前の主だ」
だから思う。
「……ある、じ」
と声を発したイヌマルの主はステラでもあり、俺でもあるのだと。




