10月12日 エドモンド・クラーク
村人からの祝福の声が辺りに響く。村長に就任したばかりの私のことを祝ってくれるのは有り難いが、この村の村長になりたいとは今この瞬間でも思えなかった。
何故なら、二十年ほど前にこの村で人狼騒ぎがあったから。
当時の騒ぎはそれほど時間をかけずに終息したが、今から四年ほど前に再び人狼がこの村で出るようになったから。
人狼に対してどのような対応を取ればいいのか。その決定をしなければならないのは村長となってしまった私だ。その重圧に押し潰されそうになる、前村長は二十年ほど前の人狼騒ぎと今の人狼騒ぎを経験しており、それを受けても重圧を感じているようには見えなかったが。
「おじいちゃん?」
声をかけてくれたのは、孫のノーラだった。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
私はもう充分過ぎるほどに年老いている。駆け寄ってきたノーラは私を支えようとするが、未だに村人の前に立っている私はノーラの手を断った。
前村長が何を考えていたのかはわからないが、彼が私たちの前で弱音を吐いたことは一度もないのだ。私も、せめて村人の前では弱音を吐かない村長でいたい。ノーラは心配そうな表情で私の傍に立っていたが、体調を崩しているわけではない私はノーラに心配させまいと微笑んだ。
「みなさん、ありがとう。もう家に帰ってください、暗くなります」
人狼がいつどこに現れるのか、それは未だにわかっていない。ただ、暗くなる前に家に帰るのがこの村の暗黙の了解となっていた。
村人たちは素直に家に帰っていく。誰も噛まれたくない、誰も大切な人を失いたくない、だから私に期待している。
「────」
私の代で今回の人狼騒ぎが終息するだろうか。前回はいつの間にか出なくなっていた、だから参考になる情報は一つもない。人狼騒ぎが長く続いている今、村人たちの中にはもう終わるのを待つだけなのは嫌だと思っている者もいるらしい。
人狼が私たちに向けている牙を、今度は私たちも向けるのだと。
私に求められているのはそれに対する指揮だ。だが、それで村人たちが全滅してしまうのは良くない。私は人狼騒ぎを解決する決断力も知恵もないと思っているが、誰のことも傷つけたくないと思っている。
結局、私が村長になってもこの村は何も変わらない。申し訳なく思うが、人狼に戦いを挑んだ責任は取れそうにない。それならば何もしない方がいいのだ。そう思っている。
私がノーラたち下の世代に残せることは、この村の仮初の平和だった。




