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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2015年
90/201

8月15日  炎竜神燐火

 家中を歩き回っていると、組員兼使用人たちだけでなく娘のひそかめぐむもぎょっとした表情でこちらを見る。

 不愉快だ。けれど、離れに引きこもって隠居すると言ったのは私の方。彼らの反応は不思議ではない──とは思うけれど、やはりあからさますぎて不快になる。


「……電話」


 近くにいた若い女に声をかけると、その女は慌てて自らのスマホを差し出した。


「どっ、どちらにお電話いたしますか?」


「……三善京子みよしきょうこ


 答えるけれど、女には伝わらなかったらしい。それでも、《十八名家じゅうはちめいか》の分家の意地を見せたのだろう。五分もしないうちに三善京子の電話番号を見つけ出し、かけた状態で私に差し出してきた。


燐火りんか様ですか? 初めまして、私は三善京子です』


 猫を被っているような声と態度。不愉快だけれど用件を話す。


「……ねぇ、どうして帰ってこないの? 今日は依檻いおりの二十歳の誕生日でしょう?」


 一応誰にも聞かれないように中庭に出た。そうしなくてもその場にいた一族全員が耳を塞いでいたけれど。


『申し訳ございませんが、それを私に言われても困ります』


「……はぁ? 貴方があの家の養母でしょう」


『書類上はそうですけど、あの家の真なる母は私ではありませんので』


「……意味がわからないわ。貴方、燃やされたいの?」


 半妖はんようは老いると力が衰えてただの人同然になる。それでも、放火できるほどの火力はまだ私の中に残されていた。


『燃やされたくはありませんが、貴方の炎は私には届きませんよ?』


「……貴方、本気でそう言っているの?」


『と言いますと?』


「……私の力がそれだけではないということよ」


 壁一面の窓ガラスを一瞥し、中にいる一族をそれぞれ見つめる。全員が組員兼使用人で、下りてきた密と恵は組の頂点に立つ者で。


『あぁ……確かに、《紅炎こうえん組》として攻められたら死にますね』


 笑った三善京子を殺すことは容易だった。


「……で、どうするの?」


『いや、それでも無理ですよ。私が死んでもあの子たちの日々に影は落ちない。私は──いや、あたしは、あの子たちの大切にはなれないんだよ』


 三善京子の言っていることがわからなかった。わからなかったが、それが現在の百妖ひゃくおう家なのだと思った。


「……意味がわからないわ」


 本気でそう思う。どうしてこうなったのかしら。


『燐火さんの気持ちもわかるけど、あの子たちは放っておいた方が身の為だよ。あの子たちは次期頭首、大事にした方がいいって思わないかい?』


 三善京子に返す言葉が、出てこなかった。

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