4月9日 首御千青葉
八歳の時に生まれた妹に会ったことは一度もない。会いたいと思っていても、会うことは許されない。俺たちは所謂生き別れの兄妹だった。
陽陰学園の中庭に出されたクラス表の付近に立ち、近寄ってくる新入生の顔を一人一人確認する。昨年度から教師になった俺は新人として働き回らなければいけないのかもしれないが、俺だけがこんなわがままを通すことが許されていた。
俺は《十八名家》首御千家の本家嫡男だ。
首御千家は教師を輩出する一族で、半分ほどが一族の人間だが、現頭首の息子である俺よりも偉い立場の人間はどこにもいない。そんな俺の妹は将来首御千家の現頭首を継ぐ者だ。そんな彼女を一目でもいいから見たかった。
「あっ! あった!」
「緊張する〜! 私ら全員同じクラスだといいね〜!」
「それは無理でしょ」
「今まで一度も同じクラスじゃなかったしねー。家でも一緒なんだから違ってもいいじゃん」
この場にいる誰よりも騒がしくクラス表に近づいてくる三人組に視線を向ける。俺が視線を向けたように新入生の視線を集めた少女たちは、見た目も他の新入生と大きく異なっていた。
一人は綿のようにふんわりとした黒い短髪で、睫毛が長いショッキングピンク色の瞳を持っている。何故かブレザーを着ておらず、中のシャツもスカートから出していた。
一人は淡い藍色の短髪で、右目に黒い眼帯をつけている。髪に結えられた呪文つきの白リボンも彼女の異様さを引き立てており、それはどれほど制服を丁寧に着ていても関係なかった。
そして──
「ッ!」
──あぁ。彼女だ。魂が喜びで震えている。
海のように青い髪。青い瞳。自分とまったく同じそれらが彼女が妹だと告げている。
「わっ、なんかセンセーぽい人がめっちゃ見てくる!」
「熾夏がうるさいからでしょ」
「えっ私のせい?!」
「そーいうとこがうるさいんだってば!」
はしゃぐ妹も熾夏と同じくらいにうるさい。注意する気はまったくないが、このまま注意をしないのも教師として違うような気がして迷う。
新入生の視線が自分にも集まった。あぁ、駄目だ。もう逃げられない。
「お主ら。ちと騒がしいぞ」
妹に初めてかける言葉はなんだろう。考えていたすべての言葉が崩れ去っていく。
「他の新入生の迷惑になる。これ以上騒ぐと職員室に連行するからのぅ? 我輩の名は首御千青葉、これからよろしく頼むぞい?」
ぽかんとした表情の妹と目が合った。だから俺は全力で微笑む。最悪の出逢いにならないように。




