1月1日 相豆院鬼一郎
寒くて凍え死にそうな季節に現頭首の母様が亡くなった。相豆院家の次の現頭首に選ばれたのは、中学三年生の俺だった。
父様は相豆院家に婿として来た外の人で、《風神組》の組員からもあまりいい顔はされていない。だからといって母様の血が流れている俺が適任者というわけでもなく、消去法だということは結果を聞かされる前からわかっていた。
俺なんかに母様の代わりが務まるのだろうか。いや、代わりじゃない。母様はもうこの世にはいない。
「相豆院鬼一郎、入りなさい」
白院家の現頭首に呼ばれて宴会場に足を踏み入れる。たくさんある巨大な円卓を囲んでいるのは《十八名家》の重鎮たちで、一回りも二回りも年上の彼らの視線が何度も刺さる。死ぬほど痛い、好きで現頭首になったわけではないのに──この世界は俺を子供扱いしない。
ごくりと唾を飲み込んだ。体中から汗が吹き出てきて止まらない。緊張しているのは多分気づかれていた。それでもステージに上がる。相豆院家の人間はどこにもいない。
「こちらへ」
ステージの中央から少しだけ離れた場所に立っていた万緑さんの元へとまた歩く。
いつだって遠くから見ていた万緑さんが目の前にいるのが信じられなかった。万緑さんが相豆院家の冠を俺の頭に載せた時も、振り返ってまた《十八名家》の人々を視界に入れた時も、信じられなかった。
「──今この瞬間から、貴方が相豆院家の現頭首兼《風神組》の組長です」
万緑さんの声はまったく震えていない。まっすぐで遠くにいる親族にも届く人々の心を動かす現頭首の声だ。
そんな人にならなければならないのに俺の両足は震えている。助けてほしいのに相豆院家の人間はこの瞬間になってもどこにもいない。
母様は死んだ。父様は外の人間だから俺に近づくことがあまりなくて、弟の翔太は体調を崩してしまい一昨日から入院している。叔父夫婦は二年ほど前に死んだし、従妹はどこかに行ってしまった。
一人には慣れたはずなのに泣き出してしまいそうだった。投げ出したかった。自分の宿命を今日も呪った。
「相豆院鬼一郎。貴方が相豆院家の現頭首兼《風神組》の組長に就任したことを、白院家の現頭首であるわたくし白院・N・万緑が認めます」
なったことを認められただけでそれ以外は何も認められていない。そんな気がした。認められたいと思ったわけではないが、母様が今日まで守り抜いた相豆院家を滅ぼしてはならない。
そんな使命感が俺を今日も生かしていた。




