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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2014年
85/201

12月21日 相豆院大志

 咲把さわさんが亡くなった。私を残して亡くなってしまった。


 咲把さんがいない相豆院そうまいん家で、私はどういう風に生きていけばいいのだろう。この家が普通の家で、鬼一郎きいちろう愛果あいか翔太しょうたがなんの宿命も背負わずに三人仲良く揃っていたら──私は三人を守る為に命を懸けて戦ったのに。

 そうすることができない理由は、ここが《十八名家じゅうはちめいか》の相豆院家だからだった。《十八名家》の人間として、《風神ふうじん組》の組員として、町と人を守る為に人や妖怪と戦うから。私は、そんな敵とは戦えないから。相豆院家の人たちに迷惑をかける。


「父様」


 私にそう声をかける人間は、現状この世界に一人しかいなかった。私たちの存在を知らないまま生きている愛果や入院生活が長い翔太は決してそう呼んではくれないから──相豆院家の現頭首に向いていない私の代わりに現頭首になるであろう鬼一郎に何を言われるのかわからなくて、つい身構えてしまった。


「父様もいなくなってしまうんですか」


 そう言ってくれるだけで、鬼一郎から求められていると勘違いしてしまいそうになる。だが、鬼一郎は悲しそうな表情をしなかった。確認しているだけのように見えて、鬼一郎に何もしてあげられていない最低な父親なのに落ち込んでしまう。

 ここは《十八名家》だから、私や咲把さんが育てなくても子供たちを育ててくれる人は大勢いた。本当に、なんの為に──誰の為にここにいるかわからないような生活をしていることに気づいて、出て行けと言われているような気分になる。


「……そう、だね」


 咲把さんが相豆院家にいないならば、私がここにいる理由もなくなるんだ。


「……そうした方が、いいんだよね」


 命を懸ける覚悟も、家や組を率いる覚悟も、私は未成年の鬼一郎と比べるのも烏滸がましいくらいにない。


「別に、誰もそんなこと言ってませんよ」


 自分の父親に対して敬語を使ったこともなかった。私と鬼一郎、そして愛果と翔太との絆は今日も驚くほどに薄い。


「いてくれるなら、いてほしいんです」


 耳を疑った。何故、と思った。私たちは親子とは呼べないほどに──関わりあったことがないのだから。


「母様や愛果や翔太の代わりに傍にいてくれたのは、父様だから」


 そこにいることしかできなかったのだから。


 鬼一郎が願うならば、私はずっとここにいよう。鬼一郎が私を必要としなくなるその日まで、咲把さんが今日まで守り続けたこの家を私もなるべく守っていよう。


 それが私の、咲把さんへの手向けだった。

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