8月6日 芦屋美歩
昨日のことはよく覚えていなかった。気づいたらパパとママが血を流して倒れていた。その意味がよくわからなかった。
「美歩、おいで」
おじさんが腕を広げてわたしのことを待っている。おいでって言われたからそっちに言った。おじさんはわたしのことを抱き締めて、頭をいっぱい撫でてくれた。
「ごめんね。辛かったね」
おじさんはずっとわたしに謝っていた。おじさんは悪くない。全部わたしが悪いのに。わたしがパパとママを殺したのに、どうしておじさんは優しくしてくれるんだろう。
「今日からおじさんと一緒に暮らそう? 本当はもっと早くにそう言わなきゃいけなかったんだけど、何も言えなくて本当にごめんね」
わたしは、何も言えなかった。
「美歩ちゃん、おかえりなさい」
おばさんにも、黙ってわたしを見ているゆうちゃんにも、何も言えなかった。
「みほちゃんといっしょに住むの?」
「そうよ。結希くんはお兄ちゃんだから、美歩ちゃんのこと守ってあげてね」
「はーい」
「今日から君は俺たちの娘だから。家族になろう、幸せになろう?」
おじさんはわたしを悪い子だって言わなかった。だから、優しいおじさんの為に生きようと思った。
*
母と叔父が馬鹿みたいに優しいのは芦屋家の呪いか何かなのかもしれない。
「町の結界を壊そうと思うんだ」
そんな叔父に救われていたから、叔父が──父さんが馬鹿みたいなことを話しても驚かなかった。
「みんな、力を貸してくれないか?」
父さんが養子として迎え入れた他の五人も理由を聞かなかったけれど、全員ちゃんとわかっていると思う。父さんは陽陰町に閉じ込められている妖怪を救おうとしているのだ。
それが世の為人の為になるとわかっていたから、父さんに救われていたあたしたちは力を貸した。あたしは、妖怪を想うあまり裏切り者扱いされた父さんの名誉の為に戦おうと思った。
「美歩は美しいね」
いつだったか父さんがそう言ってあたしのことを褒めてくれた。それはあたしの名前の一部だった。
だからあたしはどんなに辛くても立ち止まらずに歩き続ける。いつかそう言われなくなったとしても、立ちはだかる敵と戦い続ける。あたしが父さんの足になる。事故とはいえ父さんと母さんを殺してしまったあたしだから、父さんの為に命をかける。
ずっとそう思っていた。父さんの役に立つことが幸福だった。記憶を失くして父さんを忘れたゆうちゃんの悲劇に気づくことなく、罪人のあたしは、幸せになって生きていた。




