3月6日 結城星明
友が一人残らず死んでいった。百鬼夜行は、おれの友を一人残らず奪っていく最悪の災いだった。
天災であるはずがない。国中の陰陽師が妖のことを痛めつけ、この地に追い込み、妖が力を合わせて暴走したのだ。これは立派な人災だ。人の手で八条の地は蹂躙されたのだ。
救いだったのは、土地神がまだ生きていることか。衰弱し切っているが、死んでいないのならば明日は来る。
そういう望みを抱いていないと、八条の地は滅亡へと突き進んでいく運命にありそうで耐えられなかった。
「星明、殿……」
振り返ると、間宮の生き残りがいた。
彼の手には宗隆の刀が握り締められており、今にも死にそうな表情でその刀を運んでくる彼の窶れた姿に戦慄する。
「何があった」
「助けてくれ、この刀が、こいつが、ああ、あ、うわあ、あぁ!」
「落ち着け、落ち着くんだ」
「助けてくれ、頼む!」
一目見て理解した。
宗隆の最後の愛刀である《紅椿》が、間宮の魂を喰らっている。このまま所有していたら間宮はきっと滅ぶだろう。
「その刀をおれに渡せ」
差し伸ばし、刀に触れ、込められた怨念に身を抉られそうになりながらもしかと受け取る。
「どうすればいいんだ……その刀は、間宮の最後の刀なのに……」
「案ずるな。この刀は持てるか」
差し出したのは、おれの愛刀。万物を切り続けたが故に数多の異称を持つ刀だ。
「これは……」
「《鬼切国成》、人々はそう呼んでいる。それだけ知っていれば良いだろう」
こいつで紅椿のことも討った。
友の妻でも、妖であることに変わりはない。悪しき妖に戻り自我を亡くす前に討たねば、被害はさらに拡大していた。
「……あぁ、重い」
力なく刀を受け取った彼がそれを抱き締める。紅椿の血が染み込んでいるにも関わらず何も起きないということは、彼女の怨念を吸収したのが《紅椿》の方だったからだろう。
《鬼切国成》は、数多の妖を切りすぎた。だから紅椿ただ一人の血だけで《鬼切国成》を乗っ取ることはできなかったのだ。
「……こいつは、酷いな」
《紅椿》はおれを殺そうとしなかった。討ち取った張本人よりも、間宮にすべての憎しみが向いていた。
「あいつはあの鬼に何をしたんだろうな」
「あいつ?」
「宗隆だよ。紅椿の隣で死んでいたあの野郎だ」
「…………あぁ」
彼の憎しみがわからないわけではない。ただ、紅椿を討った後に見た宗隆の顔は己を自責する男の顔だった。