4月15日 神馬暁都
《十八名家》について深く考えたことは一度もなかった。雲の上の存在である一族が一つか二つしかなかったら気にしていたかもしれないが、十八も存在しているとそこにいるのが当たり前で。けれど俺は庶民だから、その人たちを見たことは一度もなかった。
高等部から陽陰学園に通うことになった俺は、廊下で見かけた《十八名家》の彼女の前で生まれて初めて息を止めた。同い年の俺たちよりもめちゃくちゃ綺麗で、同い年なのに大人びていて──そんな浮世離れした数々の言動が俺の目と心を惹きつけてやまなかった。それさえも生まれて初めてのことだった。
彼女の名前は確か、百妖歌七星。新入生代表挨拶で遠目から見た時も綺麗な子だと思っていたが、美形と談笑する彼女は誰よりも輝いているように見えた。
「あのっ……」
美形──後で結城涙と知った男と話を終えた彼女に声をかけようとして思い留まる。先に声をかけた先輩もまた、とても綺麗な人だったのだ。
「かなちゃんが来てくれて嬉しいわぁ。いおお姉ちゃんが卒業して寂しかったからぁ」
「中等部から高等部になっただけで、他は何も変わりませんよ? 真璃絵姉さん」
「制服が同じってだけでも嬉しいわよぉ?」
「……真璃絵姉さんは人生楽しそうですね」
姉妹だったのか。驚いた。《十八名家》は美男美女ばかりなのだろうか。
手を振って去っていく真璃絵先輩を見送って歌七星さんが入ったのは、俺も所属しているクラスで。慌てて追いかけて声をかけると、「誰ですか」と想像以上に冷たい声を浴びせられた。
「俺、神馬暁都! 同じクラスなんだ、よろしくな!」
歌七星さんは、俺が出した手をじっと見つめていた。見つめていただけで取ろうとはせず、一気に静まり返った教室を一瞥して顔を顰める。
「……よろしくお願いします」
声さえも綺麗だったのに、聞こえてきたそれは強ばっていて。あぁ、迷惑だったのだと、心が大粒の涙を流した。それでも俺は、挫けたくなかった。
仲良くしよう、友達になろう、何を言っても彼女は笑顔を見せてくれなくて。
「……わたくしは、《十八名家》の人間ですから」
瞳の中に少量の涙を溜めて告げた歌七星さんは、もう二度と自分に関わるなと暗に告げていた。
それは確かに拒絶だったが、蔑むようなものではなく──俺を守る為のものであると気づいてしまって。その時初めて、《十八名家》について考えた。
──《十八名家》はなんなのだろう。
《十八名家》のことが知りたかった。




