9月30日 皐堂大河
一目見て、路地裏の入口に倒れている二人の青年が日本人であることを理解した。だからと言って話しかけることができない、関わったら面倒そうな傷を全身につけている。
だが、こうして見つけてしまったのだから、助ける為の行動を最低限でも起こさないと後々後悔するような気がした。人殺しに加担したくはない、勇気を出して口を開く。
「……生きてるっスか」
怪我人だと思って近づいたら死人だった、そんな展開も御免だから少しだけ離れた場所から声をかける。
「…………ん」
返事にも聞こえないような声が、青年に覆い被さっていた片方の青年から漏れた。
「…………ごめ、たす、て」
「……っ」
予想通り日本語だった。救いを求められたのは想定外だった。
「…………この人、だけ、は、たす……け」
庇っていたのだろう。俺はすぐに二人に駆け寄り、声を出した方の青年を抱き上げて退かす。
下敷きになっていた青年は思っていたほどに重傷ではなかったが、意識がなかった。打ちどころというのが悪かったのだろうか。虫の息の青年の方が生きている人間のように見える。
「…………おねが、い」
「……それ以上話したら駄目っスよ」
それ以上話したら、青年が死んでしまうような気がした。
「…………おなか、すいた」
それだけ告げて意識を飛ばす。早く病院へ──二人を両脇に抱えて走り出すと、大通りの出店の前で二人揃って覚醒した。
「飯!」
そう喚いたのは最初から意識を飛ばしていた青年だ。俺は青年──弥上集と名乗った彼の指示通りに屋台飯を購入し、二人の前に出す。
集さんは俺よりも一つ年上で、集さんと一緒に〝空腹で〟倒れていた卯之原穂澄は俺と同い年らしい。そうだとは思えないくらいに汚らしく食事をする二人は飢えた獣のようだった。
「ごちそーさん、ありがとな大河! この恩はいつかぜってぇ返すぜぇ!」
「神ってほんとにいるんだねぇ〜。無宗教辞めて皐堂教に入信しようかな〜」
「……何ふざけたこと言ってんスか」
「ふざけてないよ、大真面目。大河は僕たちの大恩人だもんね」
一瞬でも助けることを躊躇った相手にここまで恩を感じられると罪悪感で潰されそうになる。
「……俺は別に」
「俺たちこれから大儲けするからよぉ、お前も一緒に来いよ! 儲けさせてやるぜぇ?!」
「駄目だよ集くん、一般人巻き込んだら」
「あっそっか! じゃあやっぱ普通に金払うわ」
それが欲しくて助けたわけでもない。俺がずっと欲しかったのは、日本人の友人だった。




