9月2日 鴉貴蒼生
共に在れと命じられたわけではない。それでも、俺たちは──鴉貴家本家嫡男の俺と鬼寺桜家本家嫡男の虎丸は、同い年ということもあって幼い頃からずっと互いの傍にいた。
友人、と言っていいのだろうか。自分と同じ立場だからなんとなく一緒にいる、幼い頃はそんな感覚だったのだけれど、虎丸は本気で俺のことを友人だと思っていそうな──警察官になるに相応しい心が綺麗な男だった。
「あとちょっとだな〜、蒼生!」
「ん〜? 何が〜?」
俺たちの家は一族全員が警察官だが、俺たちの縄張りである町内に警察学校はない。一族全員が通ったと言う町外の警察学校に来て初めて外の世界を知ったが、この学校から出たことはほとんどない。
「何って卒業だよ卒業! これが終わったら俺たちやっと警察官になるんだな〜!」
「あぁ、まぁそうだね」
本当の意味での外の世界を知らないまま、一族の人間として生きて一族の人間として死ぬ。不思議と反発心というものはなくて、虎丸も警察官になることが嬉しそうだったから、その宿命について深くは考えたことはないけれど。
「なぁなぁ、蒼生はどんな警察官になりたいんだ?」
「どんなって」
脳裏を過ぎるのは町内に残してきた妹だった。生まれた瞬間から母様の手によって監禁されている大事な妹。なんでそんな犯罪をするのかはわからなかったけれど、母様がやることはなんでも正しい。間違っていたとしても誰も指摘することができない。だって母様は鴉貴家の現頭首だから。
「……どうだろうね」
妹を救い出すことさえできない俺に警察官になる資格があるのだろうか。妹──火影のことを考えると「警察官になりたい」とさえ言えない気がする。
「そう言う虎丸は?」
「俺はな〜、悪いヤツを倒す警察官になる!」
あの町で一番の悪人面なのに、虎丸は綺麗な笑顔でそう言った。
周囲の人間は俺たちを見た目で判断する。虎丸は悪い子で、俺は良い子って。けれど本当は逆なのだ。ヒーローみたいな虎丸には、そんな夢を叶えてほしい。
「うん。いいね」
「だから俺、地域課に行くから! お前とは生まれた時から一緒だったから離れ離れになるのは怖いけど!」
「それ、おば様の許可取ってるの?」
「取ってない! 説得する!」
俺たちは本家嫡男だから、警察署の中央に行かないといけない。分家なら許されたかもしれないけど、そんなことは許されない。
「じゃあ俺も行くよ」
だから茨道に進む。宿命に逆らうことが、妹への償いになる気がした。




