8月24日 卯之原穂積
「ねぇ〜、なんで僕も連れてくの〜? 関係ないじゃ〜ん」
「だってお前がいねぇとつまんねーだろ」
「僕も集くんいないとつまんないけどさ〜、それとこれとは違うじゃ〜ん」
「いいからいいから! 来いって穂澄!」
集くんは日本人学校で出逢った時からこんな調子で僕を振り回す。どうしてだか一個下の僕の襟首を掴んで引きずり回す。
僕たちが暮らしているのはイタリアのミラノ。生まれはどっちも日本らしいけど、どっちも幼少期にこっちに来たせいでほとんど思い出がない。行ってみたいなんて思わないけれど、この学校に通っている時点でいつかは帰るのかなって思っている。そうしたら集くんと別れてしまう。
それは嫌だなぁ。素直にそう思うくらい、集くんとの日常が好きだ。集くんが与えてくれるものが好きだ。
どこかの倉庫に連れてきた集くんが見せてくれた武器の数々に魅力を感じることはなかったけれど、楽しそうに商売について話す集くんを見るのは好きだ。
僕にはあまり感情らしい感情がない。やりたいと思っていることもない。
「穂澄! お前も一緒に商売やろうぜぇ!」
「やらないよ」
僕に足りないものをいつも補ってくれる集くんが好きだ。
「えぇー?!」
「商売はやらないってだけ。ちゃんとついて行くから安心してね、集くん」
集くんがどういう気持ちで僕を振り回しているのかは知らないけれど、集くんが遠いところに行ってしまってもう会えないとしたら僕はきっと呼吸することさえできない。
「ついて行って何すんだよお前はぁ」
「何しよっか? 集くんを守るとか?」
「守られるほど弱くねぇよ!」
「でも護衛って響きなんか良くない?」
マフィアに所属する武器商人の息子だった集くん。僕には関係のない世界の住民だったけれど、そのせいで勝手に遠くに行ってしまうのは困る。勝手に死なれても、困る。
「護衛! なんかそれめちゃくちゃいいな!」
「でしょでしょ〜?」
そんなことは死んでも口に出さないけれど。
「けど、じゃあお前は……」
「え? なんでそこで躊躇うの? 商人だったら所属しないとでも思った?」
「……うっ」
「集くんって微妙に優しい性格なんとかした方がいいかもよ? 中途半端な優しさはこれからの君を殺すだろうから」
自滅されるのも、困る。
「わかった! お前が言うなら間違いないな! やっぱりお前誘って良かったぜぇ、ありがとな穂澄!」
僕たちはきっと、互いがいないとあっという間に死ぬのだろう。そんな唯一無二に出逢えて良かった。




