9月30日 白院・N・桐也
白院家の分家嫡男。それだけで周囲から持て囃されたが、妖怪という存在を幼少期から知っている俺はそれが死ぬほど嫌だった。そんなものはいらないから、俺をこの運命から連れ出してほしかった。
そんな俺の傍にいたのが、結城家の分家嫡男の涙だった。涙もまた町長の親族として持て囃されている立場だったが、彼も妖怪と戦う運命にあるのだろう。自分と同じだ、そう思っていたのに真実は違った。
『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!』
涙は、戦える力を持った陰陽師だったのだ。凄い、羨ましい。そう思っていたのにこれもまた違っていた。
涙は恐怖で涙を流したのだ。それでも涙は逃げなかった。俺を守る為に死にかけた。
『ナミダちゃん』
そう言って抱き締めた。泣いてもいい。その涙を俺は決して否定しない。そんなお前のことを白院家の俺はどうやって守ればいいのだろう。
このとち狂った世界を、どうすれば変えられるのだろう。
「桐也、涙」
陽陰学園の帰路で声をかけられた。
振り返ったら、綿之瀬家の五道さんがいた。
「話がある。乗ってほしい」
知らない人の車に乗ってはいけないことは知っていた。だが、相手は綿之瀬五道だ。ナミダちゃんと目を合わせて、俺たちは五道さんの車に乗る。車内で聞かされた話は衝撃的だった。
「半妖を……創る?!」
そんなことができるのだろうか。いや、綿之瀬家は研究者の家だ。できるからこうして話を持ちかけてきたのだろう。
「そうだ。だが、その為には協力者がいる」
「それが俺たちですか」
そう。俺たちは白院家と結城家の分家嫡男。半妖の総大将の一族として他の《一八名家》よりもほんの少しだけ多くの権限が持たされている白院家と、唯一の陰陽師の家ですべての陰陽師を率いている陰陽師の王の結城家の人間だ。他のどの《十八名家》よりも特別で、だから俺たちは強い絆で結ばれて、こうして共に生きている。
「私には白院家と結城家の力が必要だ。人々を救う為に、協力してくれないか」
「わかった!」
「ッ?! 桐也、制止です、何故即答を……」
「俺はお前を助けたい!」
瞬間、ナミダちゃんの薄花色の瞳が揺れる。もしかしたらまた泣いてしまうかもしれない。
「協力し続けて、男でも半妖になることができたら、俺はお前の隣で戦う!」
これは俺の革命だ。伯母さんのことは大好きだが、勝ってすべての人が半妖になれたら、ナミダちゃんのことを救える。
「約束するから!」
だからもう、一人で泣かないでほしい。




