9月29日 芥川恭哉
母さんが首を括って死んだ。父さんは燃え盛る炎に焼かれて死んだ。
俺はそんな父さん──《相鬼抗争》の元凶の一人とされた鬼寺桜玄石の息子だからと、《十八名家》から〝鬼の子〟と呼ばれた。親族である鬼寺桜家から〝恥晒し〟と罵られ、誰からも引き取ってはもらえなかった。
同じく《相鬼抗争》の元凶の一人とされた相豆院陣悟の娘は綿之瀬家が運営する養護施設に引き取られたらしいが、俺は何故か男だからと引き取ってはもらえなかった。
それはそうだろうとすぐに思う。俺は来月で十九歳で一人では生きていけない十二歳のあの子──乾ちゃんとは違う。
未成年だから引き取る家が必要なだけで、俺はもう一人でも生きていけると多くの人間から思われていた大人だった。
「……あなたが恭哉?」
俺を引き取りたいと名乗り出てくれたのは母さんの妹の叔母さんだった。俺は昨日まで《十八名家》の人間だったから、そうではない叔母さんに会ったのは初めてだった。
母さんの両親は父さんのことを〝娘を殺した鬼〟だと思っているらしく、母さんの子供だからと受け入れてくれた叔母さんという存在は俺にとって奇跡だった。
「……はい」
「……そう。来なさい」
だが、歓迎しているようには見えなかったのも事実だった。
叔母さんにも家庭がある。子供がいる。俺は《十八名家》の子供で昨日まではこの一族の誇りだったのに、今は違う。
住む場所と食べ物を分け与えられた。ただ、家族の輪の中には入れてもらえなかった。
俺はこの一族──芥川家にとっても〝恥晒し〟なのだ。そのことを充分すぎるほどに思い知った。
何もかもが崩れて落ちて壊れていく。逃げ出したいのに、それができる年齢でもあるのに、逃げ出せない。ここで蹲って死んでしまえたらどんなにいいかと思うのに死ぬ勇気もない。
母さんには死ぬ勇気があった。
父さんには戦う勇気があった。
俺はどっちも持っていない。俺は本当にあの二人の子供なのだろうか。
「……ごめんなさい」
生まれてきてごめんなさい。
生きていてごめんなさい。
与えられた部屋で涙を流し続けた。だから、俺の涙は誰も知らない。
鬼寺桜家の人間だから、将来は警察官になれと言われてそんな教育を受けてきた。先日警察学校を卒業したばかりで、配属先は決まっていたがたった今メール一つで取り消された。
〝鬼の子〟に警官としての居場所はない。
死ぬ勇気も戦う勇気もやはりなかった。だから俺は、この場所に閉じ篭もることを選択した。




