9月28日 鬼寺桜玄石
妻のことを、愛していた。出逢わなければ良かったと──そう思いたくても思えなくて自分自身を傷つける。
妻を殺したのは、《十八名家》のすべてであり俺だった。
《十八名家》のみに集う膨大な権力にストレスを覚えて、それ故の宿命に発狂した。そんな彼女を俺は止めることができなかった。
首を吊っていた妻を自殺と断定するのは一族の──そして《十八名家》の恥だからと、鬼寺桜家は総力を挙げて他殺とし、血眼になって犯人を探した。全員自殺だと信じて疑わなかったのに。
虚しくて虚しくて仕方がない。《十八名家》のすべてを壊して、妻のような犠牲者をもう二度と出したくなくて、俺は妻を殺した殺人鬼なのだからと自棄になって、ホテルを燃やした。
巨大な炎。鏡に映った俺は、鬼だった。
「玄石ッ!」
「陣悟……?」
「なんだお前その姿! まるで……妖怪みてぇじゃねぇか!」
「わから、ない……何も……俺は」
五道に渡された注射器が手から滑り落ちる。陣悟はそれを踏みつけて、俺を思い切り殴り飛ばした。
立場が逆だ。なんで止めに来たのが《風神組》の陣悟で、テロを起こしているのが警官の俺なのだろう。
「殴れよ兄弟!」
焼け爛れたそいつの命はもう僅かだ。俺は、妻だけでなく兄弟まで殺してしまったのだろうか。
「これは抗争だ! 俺と! お前の! だから戦え!」
違う。
「俺を殺して、お前は英雄に……」
「馬鹿野郎! 一人で逝かせるかよ!」
「……なんで」
「同じ日に生まれたんだ! 死ぬ時も一緒だって思ってたんだよ俺はずっと!」
正真正銘の大馬鹿野郎がそこにいた。こいつは本当にいい奴だ、生まれてきた家が相豆院家だったというだけで、こいつ自身は清くて正しくて美しいのだ。
「戦うぞ!」
陣悟が吠える。
「俺たち二人で! 《十八名家》をぶっ潰すんだ!」
俺たちが仲良く殺人鬼になったら、《十八名家》の地位は、信頼は、底辺にまで落ちるだろう。
「なんで、お前もそこまで《十八名家》を」
「家族を守る為だ! お前もそうだろ?! 兄弟ッ!」
紅蓮の炎は兄弟を燃やした。たった一つの鬼火でホテル一つが全焼するなら、純粋な半妖は一体どれほどの力を持って生まれてくるのだろう。
恐ろしくて体が震えた。俺は少し、間違えていたのかもしれない。
ほんの少しの人々を巻き込んで死ぬのではなく、《十八名家》全員を殺した方が復讐になった。そして、この世に生きるすべての人々の為になった。
鬼を孕ませた間宮宗隆、俺は一生、お前のことを許さない。




