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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2012年
65/201

9月28日  鬼寺桜玄石

 妻のことを、愛していた。出逢わなければ良かったと──そう思いたくても思えなくて自分自身を傷つける。


 妻を殺したのは、《十八名家じゅうはちめいか》のすべてであり俺だった。


 《十八名家》のみに集う膨大な権力にストレスを覚えて、それ故の宿命に発狂した。そんな彼女を俺は止めることができなかった。

 首を吊っていた妻を自殺と断定するのは一族の──そして《十八名家》の恥だからと、鬼寺桜きじおう家は総力を挙げて他殺とし、血眼になって犯人を探した。全員自殺だと信じて疑わなかったのに。


 虚しくて虚しくて仕方がない。《十八名家》のすべてを壊して、妻のような犠牲者をもう二度と出したくなくて、俺は妻を殺した殺人鬼なのだからと自棄になって、ホテルを燃やした。


 巨大な炎。鏡に映った俺は、鬼だった。


玄石げんこくッ!」


陣悟じんご……?」


「なんだお前その姿! まるで……妖怪みてぇじゃねぇか!」


「わから、ない……何も……俺は」


 五道ごどうに渡された注射器が手から滑り落ちる。陣悟はそれを踏みつけて、俺を思い切り殴り飛ばした。


 立場が逆だ。なんで止めに来たのが《風神ふうじん組》の陣悟で、テロを起こしているのが警官の俺なのだろう。


「殴れよ兄弟!」


 焼け爛れたそいつの命はもう僅かだ。俺は、妻だけでなく兄弟まで殺してしまったのだろうか。


「これは抗争だ! 俺と! お前の! だから戦え!」


 違う。


「俺を殺して、お前は英雄に……」


「馬鹿野郎! 一人で逝かせるかよ!」


「……なんで」


「同じ日に生まれたんだ! 死ぬ時も一緒だって思ってたんだよ俺はずっと!」


 正真正銘の大馬鹿野郎がそこにいた。こいつは本当にいい奴だ、生まれてきた家が相豆院そうまいん家だったというだけで、こいつ自身は清くて正しくて美しいのだ。


「戦うぞ!」


 陣悟が吠える。


「俺たち二人で! 《十八名家》をぶっ潰すんだ!」


 俺たちが仲良く殺人鬼になったら、《十八名家》の地位は、信頼は、底辺にまで落ちるだろう。


「なんで、お前もそこまで《十八名家》を」


「家族を守る為だ! お前もそうだろ?! 兄弟ッ!」


 紅蓮の炎は兄弟を燃やした。たった一つの鬼火でホテル一つが全焼するなら、純粋な半妖はんようは一体どれほどの力を持って生まれてくるのだろう。


 恐ろしくて体が震えた。俺は少し、間違えていたのかもしれない。


 ほんの少しの人々を巻き込んで死ぬのではなく、《十八名家》全員を殺した方が復讐になった。そして、この世に生きるすべての人々の為になった。


 鬼を孕ませた間宮宗隆まみやそうりゅう、俺は一生、お前のことを許さない。

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