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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2012年
64/201

9月28日  相豆院陣悟

 俺とあいつは、一九七二年十一月二十五日の明け方に生まれた。こう言うとどいつもこいつも「双子だったのか」と言って笑うが、そうではない。俺たちは他人で、もっと言うと犬猿の仲で、だがそれは家同士の話で──本当はあいつのことを気に入っていた。


 あいつ──鬼寺桜玄石きじおうげんこくも、俺のことを本気で嫌っているわけではなかった。

 ただ、裏社会の人間である俺の一族と、警官の一族である玄石の一族は相容れない。だから表立って仲良くすることはこの三十九年の人生で一度もなかった。


 仲良くすることは、の話だ。仲良くしないことは、できる。


 罵りあっていた俺たちを全員が不仲だと思っていた。それでも、赤ん坊の頃から同じ《十八名家じゅうはちめいか》として顔を合わせていた──しかも同じ日に生まれた俺たちは、互いのことを本気で嫌うことができなかった。


 一度だけ、陽陰おういん学園生徒会として二人きりで仕事をすることになった時、「兄弟」と呼びあった記憶がある。

 俺も玄石も、互いのことをどうしても他人だとは思えなかった。それ以上の言葉は交わさなかったが、俺は今でも玄石のことを兄弟だと思っている。


 そんな兄弟のかみさんが、数日前に死んだ。《十八名家》の宿命を──妖怪から町と人を守るという宿命を知った次の日に、自殺した。

 玄石のかみさんは周りが結婚を反対するほどに元々心が脆かったらしく、積み重なっていた警官の妻としてのストレスも自殺の原因だと噂されていた。そんなかみさんを、玄石が深く愛していたことを犬猿の仲と言われている俺でさえ知っていた。


「これが……お前の痛みか」


 燃え盛るホテルの中を突き進む。これはテロだ。本人が俺に宛てた最初で最後の手紙に記されていた。だが、俺はこの事件をテロにはさせない。俺と玄石は兄弟だから、あいつだけを悪者にはさせない。受け取った手紙を俺を焼く炎で燃やし、玄石が犯人である証拠を消す。


「……痛ってぇな」


 息ができない。皮膚も焼けた。今この瞬間この場所に立っていることができるのは、まだ、兄弟に会えていないからだ。そんな精神力だけで進んでいる。

 何もかもを捨ててここまで来た。だから会えるまで止まる気はない。裏社会で暮らす俺でさえ思いつかなかった過激な暴力に訴えて《十八名家》を変えようとしている兄弟を、俺は絶対に見捨てない。


 俺たちが相豆院そうまいん家と鬼寺桜家だったから、俺たちは兄弟と呼び合うことができなかった。


 その恨みを共に叫ぶのは悪くない。そうだろう? 兄弟。

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