9月27日 綿之瀬乾
「お嬢、こっちへ」
如月が私の手を取った。引っ張って、親から私を引き剥がそうとしている。
「……嫌だ」
私はその手を振り払った。父さんと母さんがルーフバルコニーで浮かべていた表情を、月明かりが教えてくれていた。
「父さん! 母さん!」
思い切って走る。追いかけてきた如月が私を抱き抱えるけれど、父さんと母さんはそんな私を瞳に映した。私と同じ父さんの碧眼が、私のことを閉じ込めた。
「乾、どうした。冷えるだろ」
「眠れないの?」
二人揃って頭を撫でる。笑ってくれているけれど、心からのものではないと気づいている。
どうしたの、そう言いたかったのは私の方だった。
「すみません、戻ります」
「いいいい、戻るな坊主。ここにいろ」
邪魔してはいけない、そう悟った如月を引き止めて四人町の夜風に当たる。とても冷たい──けれど離れたくない。もう親離れしているはずなのに、したいのに、なんでかもっと一緒にいたいと願った。
「坊主……いや、宗太」
「はっ、はい」
初めて父さんから名前を呼ばれた如月は、元から伸びていた背筋をさらに伸ばして硬直する。抱き抱えられていた私が苦しいと思うくらいだ。
「明日、乾のこと頼んだぞ」
「…………はい」
「お願いね」
「…………お二人の、ことは」
勇気を振り絞った声。それこそが私が言いたかったことで、先を越されたことを悔やむ。
「何言ってんだよ、なんで俺らがお前に頼まれなきゃならねぇんだ」
「あっ、す、すみません」
「ううん、ありがとう。その気持ちだけで充分よ」
「明日は仕事?」
私の家は普通の家とはだいぶ違う。常に命を狙われているような家だから、いつ離れ離れになってもおかしくない。
いつもはまったく怖がらないのに、父さんと母さんの表情はやっぱり私を不安にさせるものだった。
「そうだ」
「行かなきゃ駄目なの?」
「そうだ」
「……絶対に?」
父さんは《風神組》の偉い人で、そんな父さんが出なきゃいけないということはとても大変な仕事ということで。
「そうだ」
風が吹く。髪を乱す。
「あいつを止めることができるのは、俺だけだからな」
瞳を閉じて願う。
あいつって誰? 私はそう尋ねることができなくて、父さんの苦しそうな表情を目に焼きつける。
母さんはそんな父さんの気持ちを理解していた。理解していなかったのは私と如月だけだった。けれどこれだけは理解できる、私は父さんを止めることができないのだと。
私の為に生きてと、言って困らせることができないことを。




