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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1023年
6/201

3月5日   曙

「あっ、あぁっ、ああああああああああああああああっ!!」


 子宮が食い破られていく感覚がする。わたしの中に注がれた遺物は生き物となり、わたしの体を内部から破壊していく。

 わたしの上に乗りかかった九尾の妖狐は、飛び退いて終わる時を今か今かと待っていた。


「あぁっ! あぁっ! あぁああっ!」


 身悶えて、畳を引っ掻き、嘔吐する。わたしのお腹がぱっくりと開かれ、産声が聞こえてくる。


「ああああああああああああああああ!!」


 あの時と同じだ。紅椿あかつばきがあのお方との子を産んだ時と同じ。


「っ、っ……」


 声が出ない。涙も、出ない。


「…………」


 生まれてきた〝望まれない子〟は、九尾の妖狐に攫われた。わたしは地面に背中をつけたまま、死にたくないとただそれだけを思っていた。


 だってまだ、あのお方に──宗隆そうりゅう様に愛していますと伝えていない。


 視線を動かすと、毒々しい真っ赤な空が視界に入った。

 宗隆様はどこにいるのだろう。今も生きているのだろうか。……生きていてくれたら、とても嬉しいのだけれど。


 突如発生した百鬼夜行は、この土地に住む数多の人々を殺して八条はちじょうの地を蹂躙した。それは、各地から妖怪を追い詰めてきた陰陽師おんみょうじ様が起こした災害だった。


「かっ、は」


 血を吐き出す。こんなことになるのならば、宗隆様にちゃんと伝えておけば良かった。紅椿を愛するのはやめてくださいと言えば良かった。


『何故に其方は間宮まみやを愛す』


「……あのお方が、わたしを、救って……くださったから……」


 そう。先ほどの九尾の妖狐もそうだったけれど、わたしは昔から妖怪に好かれやすい性質を持っていた。そんな妖怪に迷惑していたわたしは、間宮宗隆様に救われた。

 宗隆様のお傍にいることで妖怪から襲われることがなくなったわたしは、宗隆様の傍に永遠にいたいと思った。


 傍にいたいと思った理由はそれだけじゃないのに。紅椿と共にいることを決意したあのお方を見て、わたしは自分の気持ちに気づいてしまったのだ。

 元々身分違いの恋だった。けれど、身分どころか種族さえ違う方と一緒になるとは思わなかった。


 温もりが体から去っていく。血液が離れ、わたしのことを殺していく。


 宗隆様がわたしを拾ってくださらなかったら随分と前に消えていた命が、今尽きようとしていた。

 願うなら、来世では貴方と共に生きられますように。けれど、貴方が土地に還る日は今よりも遠い未来でありますように。

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