12月2日 如月宗太
港に停泊する船を見上げる。海外に行くのだろう、そう子供でも推測できるほどの巨大な船だ。
たった十二年しかなかった人生で最後の日かもしれない日に限って空は青く澄んでおり、縛られた俺は、閉まっていく木箱の蓋を為す術もなく眺めていた。
自分は売られた。そのことを理解していたが、納得することができなくて暴れる。
木箱に体当たりをした。頭突きをした。そうしたら蓋が開いて、注射針が見えて、首根っこを掴まれる。
手足を拘束されていた俺は、そのまま外に引きずり出された。周りを見る。木箱のせいで誰も見えない。誰も俺のことを助けてくれない。
家畜のようだった。クソみたいな人生だ。だったらさっさと終わってしまえ。
薬を打たれる覚悟をして大人しくなる。命を諦めるのが遅かっただろうか。いや、このまま眠って旅立てるなら、抵抗して良かったかもしれない。
瞳を閉じた。自分の人生の中で間違いが一つあったとするのなら、あの両親から生まれてきたことだった。俺を売った金は今頃組の資金になっているのだろうか。好きで産んだわけではない俺をこんな形で始末することができたなら、弟か妹が誕生したとして、また同じ目に遭ってしまうのだろうか。
できてもいない下の子を思い、少し暴れる。やはりあいつらの思い通りにはさせたくない。
死にたく、ない。
「お前らぁ! そこで何してる!」
木箱を飛び越えて着地したのは、大柄な男だった。誰だ──そこそこの地位にいると思われるほどに威厳がある、古傷だらけの壮年の男。
「あれは……」
「ッ! お前ら逃げろ! 《風神組》だ!」
「ひっ?! バケモノの弟?!」
「まぁーだ俺のことを弟呼ばわりしてるのかよ。〝外〟じゃ俺もまだまだだな」
男はやれやれと肩を竦めた。そんな状況ではないというのに、男を視界に入れた瞬間俺を縛っていた奴らが全員一目散に逃げていく。
「大丈夫か、坊主」
あっという間に縄を解かれた。木箱の間を縫って来た女は男と俺を見て「あらあらまぁまぁ」と口元に手を当てる。
「おじさん、誰……」
「俺は《風神組》の相豆院陣悟だ。坊主こそどこの誰だよ、家は?」
「如月……宗太。家はない」
「あなた。この子、多分例の子よ」
「なるほどなぁ。じゃあ坊主、うちに来るか」
「え?」
「つってもこっからだいぶ遠いし、今まで通りの暮らしはさせてやれねぇけどよ」
「…………行く」
どうにでもなれ、そんな俺の気持ちを汲んでか、この二人は温かい手で俺の頬に触れて笑んだ。




