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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2010年
55/201

7月23日  小倉輝久

 好きになってはならない人を好きになってしまったとしたら、その人はどのような選択をするのだろう。知りたかったのはその答えだが、なかなか俺の前にはそういう人間が現れなかった。皆、好きになってはならない人を好きになったら諦めるものだと──笑っていた。


輝久てるひささん」


 そう言って笑いかけてくれる人の一人が《十八名家じゅうはちめいか》の小倉おぐら家の現頭首の実妹、陽縁ひより様だ。

 彼女と出逢った場所は図書館。ただの司書の俺に小さな声で声をかけてくれて、様々な本の取り寄せの話から俺たちの関係は始まった。陽縁様が読みたいと思う本はすべて絶版で、《十八名家》の力でもなかなか手に入らないから図書館を利用しだしたらしい。


 《十八名家》の人間だが、偉そうには見えない。気取っているようにも見えない。心優しいのは陽縁様だけではなく実兄で現頭首の雷雲らいうん様もで、惹かれてはいけないのにいつの間にか惹かれていて、ある日突然陽縁様からお付き合いしてほしいと告白された。


 だから、プロポーズは俺の方からするべきなのだ。陽縁様と庶民の俺とはあまりにも身分が違いすぎる。陽縁様が《十八名家》とはいえ雷雲様と遠縁だったら良かったのに。そう思うもう一つの理由は、《十八名家》の本家の女性の間だけ全員結婚せずに子供だけ産むことが常識だったからだ。陽縁様から断られることが怖かったからだ。


 好きになってはならない人を好きになってしまったとしたら、その人はどのような選択をするのだろう。


 《十八名家》の本家の女性を好きになったら、俺たちはどうすればいいのだろう。


「最近ぼーっとしていることが多いように見えますが、何か悩みがあるのですか?」


 陽縁様に心配させてしまった。なんでもないように取り繕う。


「輝久さん、私とお付き合いするのは、嫌でしょうか」


「えっ?」


「輝久さんは他の女性からも好意を寄せられています。その方たちとの方が、輝久さんが幸せになるんじゃないかって」


 陽縁様は、泣きそうだった。恋人同士になってからも俺たちは互いの呼び名を変えられない。距離感を詰めることもできない。


 自分でいいのだろうかと悩んでいたのは陽縁様もだったらしい。


 ならば、悩んでいるのは──馬鹿らしい。


「私の気持ちを聞いてくれますか」


 陽縁様が悲しそうに俯いた。俺は、陽縁様にそんな表情をさせたくない。



「いつか俺と、結婚してください」



 今すぐとは言えなかった。陽縁様に相応しい男になるまで、待っていてほしいと思ったから。

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