7月28日 鴉貴エリス
子供なんてどうでもいいと思っていた。子供は道具、子供は半妖。そして、私自身も道具でバケモノ。
腕に抱いた娘はバケモノだった。傍にいて出産を見守ってくれた長子の蒼生は、そんな彼女を不思議そうに見つめている。
抱いて初めて半妖だと判明した娘は、微かな産声を上げて自分が人であることを主張していた。
「……っ」
「か、母様?」
長子の蒼生は十三歳。この家のことを知っていても、半妖のことや妖怪のことは未だに知らない。
そんな彼が泣き出した私のことまで不思議そうに見上げていた。何も話していないのだから無理もないと思ってしまった。
「どうしたんですか、一体……」
「……ごめん、なんでもないわ」
蒼生をお腹の中に宿していた頃、男の子だと判明した瞬間から周囲の興味はなくなっていた。生まれてきてはいけない、生まれてきたことを歓迎されていないわけではないけれど、女の子であるか男の子であるか。半妖であるかそうでないか。その差はとてつもなく大きい。
私は半妖という鴉貴家の後継者を産むことをすべての《十八名家》から望まれていたのに、十三年間も子供を作ることをしなかった。それは、そんな周囲の反応が生理的に受けつけられなかったからだろう。
私は長子で、エリカという妹がいる。最初に産まれたのが私という半妖だったから、エリカの時は最初から興味を持たれていなかったのだろうと思う。この家の為に次の子をお腹に宿した時、周囲の期待は尋常じゃなかった。
まるで、蒼生が失敗作と言われているようで──悲しかった。
「嘘をつかないで、母様」
蒼生の綺麗な手が、火影という名をつけた娘を抱く私の手に触れる。
「俺の知る母様はそう簡単に涙を流さない。その涙は火影が産まれたことを喜ぶ涙じゃないことくらい、わかるよ」
「…………っ」
とめどなく溢れ出す涙は私の中の何を伝える為に流れたのだろう。腕に抱くこの子を手放したくない。期待に負けて子供を作って、期待通りの子供を産んで、けれども──けれども、この子を待っていたこの世界の仕組みが憎たらしくて腕に力を込めてしまった。
「あぁぁあ〜!」
火影がうるさく鳴き声を上げる。慌てて止めた。蒼生に押しつけて両手で顔を覆って泣いた。
子供は道具、子供はバケモノ。そういう価値観を肯定するこの世界に従いたくない。半妖が産まれたら百妖家に送らなければならないのに、私はそうしなかった。
娘を蔵の中に閉じ込めて、生まれて来なかったことにした。




