11月25日 八条国成
八条に住み着く妖の中に、紅椿という名の鬼がいる。
今日もおれの家の戸口に立つ赤い鬼は、おれが作る刀に興味を示していた。
「一緒に作るか?」
いい加減鬱陶しくなってそう尋ねる。すると、紅椿は赤い両目を見開いた。
こっちまで来たということは、本当に作る気でいるのだろう。半ば冗談でそう言ったのだが、紅椿は本気にしていた。
「おまえ、この間赤ん坊が生まれたんじゃなかったのかよ」
頷かれる。なのに刀に触れていたいのか。
おれに子供は一人もいないが、紅椿のその気持ちはわかるような気もした。仮におれに子供ができたとしても、その手に触れているのは刀だと思うから。
「なんでだ」
それでも一応問いかけた。妖と話せるわけじゃないが、本当に刀を愛する者の気持ちならばわかるかもしれない。
紅椿は赤い瞳でおれを見た。次に見たのは部屋の隅に置いてある一振りの刀だった。あれは──
「──宗隆の刀か」
紅椿が顎を引いた。
大事な旦那を守る為の刀を作りたい。要するにそういうことなのだろう。
「言いたいことはわかった。だが、おまえと共に作るものだろうと手は抜かないからな」
また頷かれた。紅椿の声は聞こえないのに、紅椿は俺の言葉を理解している。
宗隆がどうして紅椿と共にいれるのかは疑問だが、言葉がなくても大丈夫だという宗隆の言い分もわかる気がした。
「今日からおまえはおれの弟子だ。生半可な気持ちで刀を作ることができないということを教えてやるよ」
紅椿は笑みを浮かべた。笑える奴だとは思わなくて驚いて、妖が笑ったことに気がついた。
鬼と共に刀を打つなんて狂っている。そう思ったのを覚えていた。
*
「え、いいのか?」
紅椿が宗隆に刀を渡した。宗隆は紅椿を見、そして彼女の隣に立つおれを見据える。
「太刀、銘八条──名物、《紅椿》。それがこの刀の名だ」
「わははっ! おまえらもう名づけてるのか。ていうか《紅椿》?」
「おまえの嫁と共に打ったからな」
「紅椿がこれを?!」
褒められたいのか、宗隆に擦り寄る紅椿は女だ。
宗隆は目一杯に紅椿を褒め、曙に預けている我が子にも見せる。
「宗隆様、お気をつけください……!」
心配性の曙が刀を持つ宗隆から子供を離した。生まれて一ヶ月経った子供は、真っ赤な瞳で《紅椿》を見つめている。そして小さな手を伸ばした。
「おまえもこれが気に入ったか! わははっ、でもこれはおれのだ! おまえにはおれの刀をやろう!」
父親の言葉がわかるのか、子供は口角を上げて笑っていた。