10月5日 神城珠李
全国公演から陽陰町の駅まで帰ってきた刹那に彼女の死を知らさせる。それを伝えた三人の式神は、百年以上続いた彼女の戦友であり家族だった。
「ッ!?」
燃えるような痛みが頬に走る。俺を本気で殴った黒い式神は、当然のように怒っていた。
「やめなよゲンブ!」
子供のような見た目の白い式神が彼を止めるが、俺は彼らから殴られても仕方のないことをした。青い式神は責めるような目で俺を見ていたが、口には出さないまま腕の中で眠る赤ん坊を差し出してきた。
「娘です。貴方の、スザクの」
「……この子、が」
俺なんかが触れていいのだろうか。青い式神の顔色を伺うと、「早くしなさい」と叱られる。
俺は赤ん坊を自分の腕で抱いた。この子が俺の娘なのか。この子が、スザクが命をかけて生んだ子なのか。
「っ」
「情けない面ですね」
泣きそうになって言葉に蹴られる。青い式神もまた俺に怒りの感情を抱いていた。
「しっかりしなさい。この子は貴方の娘なんですよ」
「……はい」
娘を抱き直し、今は眠る彼女を見つめる。
スザクに似た可愛らしい顔だ。彼女と共に我が子を育てられると思っていた。
「貴方に人として育ててほしい、それがスザクの遺言です」
幸せな家庭を築こうとしていた俺の夢は呆気なく壊れる。
黒い式神は姿を消した。青い式神も姿を消した。残った白い式神だけが心配そうに俺を見ていた。
「大丈夫?」
そんな言葉をかけてくれるなんて思わなかった。
「大丈夫、だ」
「あのね、スザク、この子を生むって時に君の姿を見に行ったんだよ」
「え?」
「そしたら君が笛を吹いてた。そんな君を、スザクは嬉しそうに見てた」
あの場所に、スザクがいた……?
スザクの為に吹いたあの音が、最後にスザクに届いたなら。なら、スザクは──笑ってくれていただろうか。
「九月二十九日だよ。この子の誕生日と、スザクの……命日は」
「……ありがとう」
聞きたかったことをすべて話してくれた白い式神は、最後ににっこりと笑って消えた。
その日からその三人の姿を見たことはない。託された──いや、生まれてきてくれた俺の娘は俺と同じアーモンド色のような髪色だったが、光の加減でパステルピンク色にも見えた。初めて会った時は見えなかったが、瞳の色はラベンダーだった。
そこもスザクによく似ていた。
そんな娘を──千里を手探りで育てていると毎日が目まぐるしく過ぎていく。
スザクを亡くして悲しむ暇もないほどで、俺は、千里に救われているのだと思った。




