9月29日 先代スザク
感じたことのない痛みを感じて、自分のお腹に手を当てる。そこには、珠李さんとの間にできた愛しい我が子が眠っていた。
「スザク?!」
異変を感じたのか、駆けつけてきたゲンブが私の肩に手を回す。それだけで恐怖が一気に引いていった。
「……ありがとう、ございます」
「どうした?! なんかあったのか?!」
「……えぇ、多分、この子が」
「ッ!」
恐る恐る、大きくなったお腹へとゲンブの灰色の目が落ちていく。私は顎を引き、彼に、駆けつけてきたセイリュウやビャッコに、珠李さんの元へと連れていくように頼んだ。
ゲンブは渋ったけれど、セイリュウとビャッコが私の肩に手を置いてくれて。次の瞬間、私たちの家から遠く離れた地にあるコンサート会場へと景色が変わった。
「スザク! あまり動くな!」
「……大丈夫、です。ありがとう……ゲンブ」
「スザク! 大丈夫そうには見えないよ?!」
「……スザク、ここは子を産む場所に適していません。戻りましょう」
それぞれが私の体と赤ちゃんのことを心配してくれるけれど、どうしても、視線は舞台の上に立っている珠李さんを見つめてしまう。
篠笛奏者の珠李さんは、遠い街で自らの演奏を人々に聞かせている最中だった。
珠李さんはよく小倉家に出入りしていたせいか、式神の私たちを見ることができる稀有な人間で。そんな人と恋に落ちてしまった私は、式神の長い歴史の中で初めて子供を身篭った咎人で。
生まれてくる我が子は一体どんな子供なんだろう。人間と大差ないほどに我が子への愛情が存在するはずなのに、そんな我が子の顔が見れないような気がして私はその場に崩れ落ちた。
「えっ、スザク?! どどどどどうしよう!」
「落ち着きなさい! スザク、戻りますよ?! いいですね?!」
「スザクッ! なんで血が出てくるんだよ! なぁ!」
「み、んな……」
迷惑をかけてごめんなさい。心配させてしまってごめんなさい。
けれど、珠李さんに出逢えて本当に良かった。彼を愛することができて、本当に良かった。
すぐに景色は元いた我が家へと変わり、布団に押しつけられた私は大慌てで出産の準備をする彼らに支えられながら力む。
「……うま、れたら」
「え?! 何?!」
「しゅり、さんに……ひととして、そだてて……」
「おい! なんでんなこと今言うんだよ!」
長い時間がかかっていた。みんなも、私も、尋常ではない汗を掻いていて必死だった。
そんな中で神に願う。どうか、この子が、幸せな人生を歩めますようにと。




