5月8日 白院・N・万緑
夜明けと共に生まれた我が子は、とても小さな生き物だった。こんな生き物を間近で見たことがなかった私は唾を飲み込み、自分の中にあるすべての愛を使って彼女に触れる。
娘は、白院・N・ヒナギクは、半妖だった。
触れただけで我が子が半妖だとわかるのは、私自身も半妖だからだろうか。
次期頭首を生まなければならなかった私にとって、初めて生まれてきた我が子がそうであったことが何よりも良かったと思ってしまう。そうでなかったら、生まれるまで生み続けないとならないから。そんなことは、半妖の総大将を任されている我が身でも耐えられそうにないから。
「……良かっ、た」
最初に出てきた言葉は、生まれてきた我が子へ贈る言葉ではない。自分自身に贈った言葉で、それは多分間違っているのだと自覚していたけれど止められなかった。
「お姉様、それはつまり……」
「えぇ。この子は半妖ですよ」
「……ッ!」
「私の代わりに、皆にも早く伝えてください」
「はい! 承知致しました!」
「頼みましたよ」
息子である桐也を産屋に残し、妹は駆けていく。桐也は締まりのない表情で従妹に当たる娘のヒナギクをじっと見ていた。
「伯母様、この子の名前は?」
「ヒナギク。ヒナギクですよ」
「そうなんだぁ。かわいい名前ですね」
「えぇ。この子は私の希望、私のすべて」
後継者を抱き締めて、不意に、あの家のことを思い出す。
百妖家。生まれてきた半妖たちが、例外なく送られる家。
そこに我が子が送られてしまうのだと思って、あの家に集った次期頭首たちが偽りの家族として過ごしていることを思って、眉間に皺を寄せる。
「えへへっ。なんか、妹ができたみたいで嬉しいです」
私自身もあの家で育ったから送ることに異論はない。けれど、家族として私の存在を知らないまま過ごしていくのは総大将として認められない。
「……伯母様?」
「桐也。この子のこと、本当の妹のように可愛がってあげてくださいね」
妹は一人生んだからそれでいいだろうと言って、二人目を作ることを拒んだ。私は頭首であるからこそ、二人目も、そして望むなら三人目も生まなければならないのに。
「はいっ!」
「お母さんを呼んできてください。多分、家の者に捕まっているでしょうから」
飛び出した桐也をこの目で追う。そして、戻ってきた妹に向かって娘を百妖家に送らないことを告げた。
私の娘は私の手で育てる。幼い頃から総大将としての自覚を育む為に、私は、娘を鳥籠の中に閉じ込めた。




