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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2005年
40/201

4月18日  間宮朝日

 私の父さんは、私と姉さんをこの世界に生んで良かったのかと思っている。そのことを私と姉さんは知っている。


「ッ、あぁっ!」


 私たちの一族は裏切り者の一族だから。

 千年前、間宮宗隆まみやそうりゅうが妖怪と恋に落ちたから。


 だから、こんな汚れてしまった血を我が子に継承していいのかって──そう、思っていた。


 私も、姉さんも、そんな父さんのせいで生まれてきて良かったのかって本気で思っていた。周りの人たちからの嫌がらせに耐えられなくて、何度も泣いて、けれど父さんに「産ませなきゃ良かった」と言われたくないから姉さんと二人で口を噤んで。

 結婚して名前を変えた今、それ自体は減ったけれど、やっぱりそういう雰囲気は残っていた。傷も、癒えたわけではなかった。


 これは、呪いだ。陰陽師おんみょうじからの呪いであり、妖怪からの呪いであり、父と母からの呪いである。


「あっづっ、ぐぁっ……!」


 そんな呪いを抱えた私が、今、我が子を産み落とそうとしている。怖い。この子に呪いをかけてしまうかもしれないから。私と同じ苦しみを味わせてしまうかもしれないから。


 この子に生まれてきて良かったのかと思わせたくない。私や姉や父のようにはなってほしくない。そう思わせないように頑張らなきゃいけないのだろうと思って、けど、頑張ることが怖くて、親になることも怖くて、取り出された我が子の顔を見れなかった。


 産声が聞こえる。優しい声。母さんもこんな声を聞いていたのだろうか。そう思ったら泣きそうになって、泣いてしまった。何がなんだかわからなくて感情がぐしゃぐしゃになる。


 死にたい。死にたい。死にたい、けど。


芦屋あしやさん、元気な男の子ですよ!」


 生きようと必死に藻掻く彼の声が、顔が、私を母親にさせようとする。


「……あか、ちゃん。わたしの、わたしと、あの人の」


 手を伸ばした。光へと、手を伸ばした。


 彼のことを本気で育てたら私は生きようと思えるのだろうか。この呪いを解いて、愛しい人たちと共に生きて、笑い合うことができるのだろうか。


朝日あさひ……!」


 何故か隣にいてくれた雅臣まさおみの声が、今になってようやく耳に届く。

 私の母は父に従っていたけれど、父の血が間宮だったこともあって完全に父のことを愛しているようには見えなかった。嫌々結婚したかのような雰囲気をずっと感じていた。


 けれど、雅臣はそうじゃない。

 千秋せんしゅうさんも、そうじゃない。


 私たちはもう呪いを解いているのだろうか。握られた手を握り返し、私は彼に向かって笑んだ。

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