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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1006年
4/201

10月31日 芦屋清行

 産声が、間宮まみや家の方から聞こえてきた。


「……清行きよゆき


 戸口に佇んでいたオウリュウに中に入る許可を得て、おれは奥へと進んでいく。


宗隆そうりゅう


「清行! 見ろよこれ、おれの子だぞ!」


「おまえには……その子の産声が聞こえるのか」


「あぁ、聞こえる。可愛い声だ」


 愛おしそうに目を細めたおれの友は、狂っている。視線を移し、あけぼのに支えられて起き上がった紅椿あかつばきを観察した。

 彼女は人ではない。額から伸びる二本の角と真っ赤な瞳は、人が持つそれではない。それでも、母となった今は人間のように見えた。そう人に思わせているから、この一年で八条はちじょうに侵入した妖怪が人と子を成しているのだろう。


「紅椿」


『ソノコハ……』


「おまえはこれで良かったのか」


『……ワタシハ、ソウリュウヲアイシテイル』


 迷いのない眼で答えられた。聞きたいのはそんな言葉ではなかった。


「なぁ、星明せいめいは? 来てないのか?」


「人でもない。鬼にもなれない。そんな化物をあいつが見に来るわけないだろう」


「薄情だな。おれの子なのに」


「ならば妻を娶れば良かったんだ。ちゃんとした人間のをな」


 曙が視界の端で唇を噛む。そんな曙の想いに気づいていたおれと星明は、宗隆と紅椿の仲を祝福することはできなかった。オウリュウも、曙も、それは同じことだった。

 誰からも祝福されない赤毛の子供は、いつまでもいつまでも泣いていた。閉じられているその双眸が開かれた時、紅椿と同じ赤目がおれたちの目を見るのだろう。


「おれは紅椿を好いているんだ。紅椿がいれば充分さ」


 そんな言葉が聞きたかったわけじゃない。愛おしそうに我が子を抱く宗隆が見たかったわけじゃない。


「おまえはそうだろうな。だが、今この八条で何が起こっていると思う」


「妖怪が女を襲っているんだろう? それは知っている。許されないことだ」


「奴らにそれを教えたのはおまえだ、大馬鹿者。陰陽師おんみょうじも次々とこの地に入ってきている。おれや星明がおまえたちを見逃しても、奴らが見逃すことはないだろう」


「その時は出ていくさ。友と別れるのは惜しいけどな」


「出ていけばいい。そこまで来ている結界から逃れられるなら」


 宗隆が唇を噛んだ。愛する者を間違えた友は、赤毛の我が子を抱えたまま真っ赤に染まった空を見上げた。


「……どうして人は、そんなに惨いことができるんだろうな」


 そんな言葉を漏らしていた。

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