3月11日 三善京子
「えー、あたしが新しくこの家の養母になった三善京子だ。よろしく」
挨拶するが、誰からも歓迎されていないのがよくわかった。本当に厄介なものを引き受けてしまった、だが、厄介だから断れなかった。
この家が半妖の養護施設のままだったらまだ受け入れられたのかもしれないが、百妖家という〝家〟になってしまった楽園の養母なんて誰にも務まらない。
出産をする為に辞任した朝日さんじゃないと無理だと思うくらい、百妖義姉妹の反応は冷たかった。
「別にいなくても大丈夫だ。早くその子を返してくれないか」
まだ小学生のはずなのに、麻露が発した言葉も凍えるくらいに冷たい。あたしは引き攣った笑みを浮かべたまま、腕の中で眠る赤ん坊の和夏を麻露の腕の中に返した。
「わかってると思うけど、こっちもそういうわけにはいかないからね。あんたたちの世話はちゃんとさせてもらうよ」
「要らないって言っているだろう。私一人で充分だ」
「充分なわけないだろう」
「そうかもしれないけど、私は京子さんのこと認めないよ」
麻露の後ろから抗議してくる依檻も、依檻の後ろから睨んでくる歌七星も、あたしのことを歓迎していない。
ただ一人だけ、何も言わずに三つ子の面倒を見ている真璃絵は何も言わなかった。
「認めなくてもいい。なんと言われようと、あたしはここで暮らして、あんたたちの親代わりを勤め上げるからね」
それをあたし以外の陰陽師みんなが嫌がった。
この子たちを守れるのはあたしだけだと思っているから、なんと言われようと独り立ちできるまではこの家にいようと決意した。
「絶対追い出す」
「辞めときな。死んでしま──」
瞬間に冷気が百妖家のリビングを支配する。あたしはそれがなんなのかに一瞬気づけず、襲いかかる吹雪を受けて咄嗟に九字を切った。
「はぁっ、はぁっ……」
ずっと自分の正面にいた麻露が、自らの体を抱き締める。寒さに震えているようだ。赤ん坊の和夏が目を覚まして大泣きするが、麻露には和夏を気にかける余裕がなかった。
「麻露! 和夏!」
遅れてあたしは動き出す。麻露の腕から和夏を受け取り、彼女の容態を確認しながらたった今〝力〟に目覚めた麻露へと視線を戻した。
「……わ、私」
怯えている。当たり前だ。この中で初めて力が発現したのが麻露なのだから。
「落ち着きな。だからあたしがいるんだよ」
陰陽師の力で麻露の力を抑える。すると、全員が堰を切ったように泣き出した。
全員を、あたしだけが抱き締めた。




