5月5日 結城千秋
必ず幸せにすると誓った妻が身ごもり、とても元気な子を生んだ。その子は前から男の子だと言われており、産声を上げた瞬間結城家全体が歓喜に震えた。
「朝羽……!」
我も、喜びが強すぎてどうにかなってしまうのではないかと思った。今日という日は結婚式を上げた日よりも美しく、そしてまた尊く感じる。
結城家まで来てくれた妖目家の助産婦がその子を我に抱かせようとするが、我は拒んで息を整える朝羽の方へと視線を移した。
「我は後で良い。最初に朝羽に抱かせてやってくれ」
彼女は母親なのだから。その権利を王だという理由で奪いたくはなかった。
「千秋さん……」
一雫の涙が朝羽の真っ赤な頬を伝う。その涙を我は撫で、喜びに満ちた表情で我が子を抱く彼女を心のアルバムにしまい込んだ。
我らの子の名前は、千羽。我と朝羽から一文字ずつ取り、次期頭首として相応しいような名前にしている。
千の羽根を広げてどこまでも高く飛べるように。結城家の代表として、陰陽師の代表として、この町の代表として挫けぬように──そんな願いを込めていた。
「……初めまして、私の赤ちゃん」
また朝羽が涙を流した。その涙を我はもう拭わなかった。
朝羽と結婚し、結城家の頭首となり、陰陽師の王となり、次の選挙で我はこの町の町長となるだろう。
《十八名家》の頭首は基本的には女性だが、結城家は女性でも男性でもどちらでも良い。問題なのは性別ではなく心身の強さだ。だから、我が子の性別なんてどうでも良かった。それでも、他の陰陽師たちは男児の方を望んでいたのか、そんな声が時折聞こえてきた。
「千羽」
この子はきっと、我と同じようにとてつもない重圧を感じながら生きていく。我と同じで、結城家の次期頭首であり、未来の陰陽師の王であり、この町の町長となるべき子なのだから。
朝羽は大事そうに我が子のことを抱いていたが、そんなことを考えると産ませてしまって申し訳ないと思ってしまう。そんなことを考える自分に嫌気が差してしまう。
だが本当に、結城家の頭首だけ背負うものの重さが違った。
それも仕方がないのだと言い聞かせる。
結城家の先祖である結城星明が、千年前に滅んだこの地を陰陽師として立て直したのだ。そして、生き残った半妖たちを束ね、今の《十八名家》を作ったのだ。
彼は始祖だ。すべての物事の始まりのような人なのだから、その責任を我ら結城家の人間が取る。
その者の血を、我は今日、我が息子千羽に継承したのだった。




