6月3日 結城朝羽
夢を見ているんじゃないかと思った。けれど、隣で微笑む彼を見て、夢ではないのだと──夢にしてはいけないのだと思う。
「千秋さん」
「ん? どうしたのだ、朝羽」
黒い羽織袴を着ている千秋さんは惚れ直すくらいにかっこよかった。当たり前だ。結城家の次期頭首、未来の陰陽師の王、この町の町長となる人なのだから。
対する私には何もない。そんな彼の妻となる女は陰陽師であれば誰でも良いとされていたが、千年前に陰陽師を裏切った間宮家の私で本当に良いのかと何度も何度も思っていた。
けれど、千秋さんのご両親が結婚を承諾してくれたこと。何より娘を一人片付けられて喜ぶ父の顔を見ていると、これでいいのだと思えてくる。
それ以上に、自分の気持ちをもう誤魔化せなかった。私を疎ましそうに眺めている他の陰陽師たちの視線を無視する強さはまだないけれど、乗り越えていきたいと思った。
「私……」
「決して、後悔はさせぬよ」
「……ッ!」
「我は頼まれたからお主を娶ったのではない。我はお主……朝羽に惚れ込んだから娶ったのだ」
神前式──いや、結婚式の今日、初めてそんな言葉を聞いた。好かれていることはわかっていたけれど、言葉にしてくれたことが嬉しかった。
「──必ず、朝羽を幸せにすると誓おう」
涙が溢れてくる。この人が私の夫になってくれる人。私の自慢の、大切な夫。
「私、も……あなたのことを、幸せにしたい。私の家のせいで、たくさん迷惑をかけてしまうかもしれないけれど……あなたに、最期まで、幸せをあげたい」
手を取り合って誓い合う。そんな生涯のパートナーに出逢えて良かったと心から思える。
「姉さ〜ん! おめでと〜!」
「ッ! あさ、ひ……!」
視線を移すと、妹の朝日と──未来の義弟である雅臣くんが私たちに向かって手を振っていた。
「千秋〜! 姉さん泣かせたら許さないから〜!」
「何を言っておる。そのようなヘマを我がするわけなかろう」
「え〜、何?! なんて言った?!」
「大丈夫よ、朝日! それと、雅臣くん! 朝日のことよろしくね〜!」
十五日後に、朝日と雅臣くんは結婚する。雅臣くんはまだ十九歳で、朝日はまだ二十歳だけれど、婚姻を急かす父さんを迷惑に思っていなさそうで本当に良かった。
私たちも、あの二人も、政略結婚という形で二度目の出逢いをしたけれど──私たち四人なら大丈夫。これから末永く、共に生きていける。
「は〜い! 朝羽さ〜ん! 千秋さ〜ん! お幸せに〜!」
これで、間宮の名は滅ぶ。こんなにも幸せなことは、多分、きっと、もう二度とない。




