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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2000年
30/201

3月25日  妖目双

 妖目おうま家は、間宮まみや家の力がないと生きていけない一族だ。その理由が先祖のあけぼのにあると知っていても、その曙が何者だったのかは知らされていない。千年前に生きていた人間のことなんて正直どうでもいいとさえ思う。


そうさん、行って」


 朝日あさひに言われて、本殿の前に広がる五芒星まで歩いていった。

 今日は、妖目家に生まれた半妖はんようにとってとても大切な一日だった。


 半妖の力を抑える儀式に必要な朝日と雷雲らいうん、そして私の妹が立った位置で逆三角形を完成させる。私は、恐怖心を悟られないように無表情をなるべく貫いて口を開いた。


「始めてください」


 伝え、私は朝日の返事を聞いた。そんな朝日の背後に立っている彼女の式神しきがみのセイリュウは、固唾を呑んで朝日のことを見守っていた。

 正座をし、瞳を閉じ、祈るように手を合わせ、そんな私の元に打ち合わせ通り妹が近づいてくる。眼帯を解き、リボンまで解かれ、私の中の力が暴れ出す。


 そんな私の力を抑える朝日の手際は決して完璧ではなかった。セイリュウが力を与えているのが伝わってくる。


 ──早く終わりますように。そう思うけれど、それが雑念になるのだろう。


 妹に髪を掻き分けられ、うなじを短刀で切りつけられるのを無感情のまま待たないといけない。どくどくと血が流れていくのに、痛いなんて思ってはいけない。


「こちらに」


 雷雲が持ってきた妹の血と、妹が持っていた短刀についた私の血。同じ血が流れている私たちの血が一つとして混じりあって、私は、手で掬ってそれを飲んだ。


 不味い。けれど、吐いては駄目。妹の血で私の血の色を薄め、雷雲が持つ大幣で穢れを祓ってもらわないと世界は滅ぶ。


「離れて」


 朝日の言葉で二人は下がった。結界が張られ、自分のものではない瘴気がぞわっと外部に溢れ出す。

 目が合った朝日は明らかに緊張を顔に出していた。私がこんなに我慢しているのに、彼女はすべてを台無しにする。


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」


 九字くじが切られた。溢れ出す妖力は消え失せて、瘴気は土地に染み込んでいく。そして土地神によって浄化され、この町の力になっていく。


 不意に、まだできてもいない未来の娘のことを思った。娘もいつか、私と同じような目に遭うのだろう。そして、その娘の為にもう一人の娘まで産まないといけないのだろう。


 この宿命は、きっといつまでも途切れない。それがいいことなのか、悪いことなのか、私は永遠にわからなかった。

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