11月3日 樒御前
「いたぞ! あそこだ!」
オいかけてくる。オいかけてくる。
クルっている。クルっている。
「待て! 〝あれ〟は殿を誑かした大妖怪だ! 油断するな!」
オいかけてくる。オいかけてくる。
クルっている。クルっている。
「殺せ!」
「殺せ殺せ!」
「殺せ殺せ殺せ!」
「殺せ殺せ殺せ殺せ!」
ウルサいウルサいウルサいウルサい。
オいかけてきたオンミョウジをナグりコロす。チのニオい。イノチのニオい。
「離れろッ!」
「どうする?! 倒すのは無理だ!」
オンミョウジをゼンインコロして、ハヤくあのヒトがいるイエにカエりたい。
ワタシをアイしてくれたあのヒト。ワタシもとてもアイしているあのヒト。ずっとずっと、ソバにいたいタイセツなヒト。
「──ッ、封印する!」
オンミョウジがサケんだ。フウインのイミはわからなかったが、もうニドと、あのヒトにはアえないようなキがした。
『イヤダ』
カンジョウがコボれる。イヤだ、アいたい、まだアイしたい。
『イヤダッ!』
ゼッタイにコロす。まだナニもアキラめたくない。
「避けろッ!」
あのヒトのソバで、ヨウカイをコロすケイカクをキいた。ワタシはナニもカンじなかった。ジブンにはカンケイのないハナシだとオモっていた。けれどイマ、マチガいなくベツのバショでもヨウカイがオンミョウジにコロされている。
ニげバはない。ナゼ、ワタシたちはコロされる? ワタシたちがナニをした? ワタシはあのヒトのことをアイしているだけなのに。
「いいのか?! 殿の命令はあの鬼を殺すことだぞ!」
アイされているはずなのに。
「仕方がない! 大妖怪はあの鬼だけじゃないんだ、これ以上死ぬことは許さないぞ!」
「わ、わかった!」
「距離を取って囲む! 全員が力を合わせれば必ず封じることができるはずだ!」
「全員死ぬなよ!」
どうして。どうしてオンミョウジはウソをつく。どうしてあのヒトがワタシをコロすなんてイう? オマエたちがあのヒトをソソノカした? オマエたちがあのヒトをソソノカして、ヨウカイをコロすケイカクをタてた?
『──ユルサナイ』
チカラがアフれる。ヒトリノコらずコロしてやる。ワタシのシアワせをウバうヤツはユルさない。あのヒトをソソノカすヤツらはユルさない。ワタシがあのヒトをマモらないと──。
「躊躇うな! 行くぞ!」
「眠れ! 樒御前!」
それは、あのヒトがワタシにくれたナマエ。あのヒトじゃないオトコがそのナをヨぶことはユルさない。
シネ。
ツタえたかったコトバは、デてこなかった。