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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1999年
28/201

10月3日  芦屋玉依

玉依たまえ!」


 嬉しそうな表情をしながら駆け寄ってきたのは、この世にたった一人しかいない私の兄さんだった。


「どうだったの?」


 結果は表情が物語っている。それでも私は敢えて尋ねた。


「オッケーだって!」


 指で丸を作った兄さんは、だいぶ浮かれている。そんな兄さんを見たのは初めてだったけれど、一生に一度のことだから全身で喜ぶ人が兄さんで良かったと本気で思った。


「そっか! 良かったね、兄さん!」


 兄さんが嬉しいならば、私も嬉しい。兄さんがプロポーズした相手が陰陽師おんみょうじの裏切り者の家の娘──間宮朝日まみやあさひさんだったとしても。私は兄さんの幸せを祝う。


「式はいつにするの?」


「朝日が朝羽あさはさんの結婚式もあるからその後がいいって言ってるんだ。だから、六月中旬かその後かな」


「あっ、そういえばそうだったね」


「俺もさすがにあの二人の前にやるつもりはないから、その辺はのんびり考えるよ」


 先日発表された朝日さんのお姉さんである朝羽さんの結婚相手は、結城ゆうき家のご子息の千秋せんしゅう様だった。

 他の陰陽師の人たちは千秋様の結婚相手が間宮家の人間であることに強く反対していたけれど、兄さんの結婚相手ならば反対はしないだろう。するのは多分、芦屋あしや家の人間だけだ。


 芦屋家は千年前に妖怪退治の第一線から退いており、陰陽師の界隈の中での発言権はほとんどない。それでも妖怪の声を聞くという唯一無二の力があるから、陰陽師の界隈で芦屋家を知らない人は多分いなかった。

 その地位は間宮家と変わらないけれど、力があるが故に変なプライドを持っている一族たちはたくさんいる。妖怪退治はしないけれど、命を懸けて戦っている他の陰陽師の人たちを下に見ているから──私たち兄妹は自分の一族のことが嫌いだった。


「朝日さんが姓を変えるの?」


「そうなると思うよ。そうしてくれってさっきぎんさんから頼まれたし」


 朝日さんが間宮家のままでいることを、朝日さんのお父様は望んでいないらしい。けど、結城家と比べたら芦屋家はあまりお勧めできない。


「そっか」


 何が朝日さんの幸せになるのかわからなかった。好きな人と結婚する人。好きではない人と結婚する人。結婚せずに子供だけ授かるのがほとんどの《十八名家じゅうはちめいか》の人たちで、結婚せず子供も授からない人も、この世界には存在している。


 私の未来はどんな未来なんだろう。幸せに笑っているのだろうか。


「私も、家族が欲しいなぁ」


 朝日さんのように、姓を変えて芦屋家ではない別の家族が欲しかった。

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