5月10日 泡魚飛七緒
──終わらない歌を歌う。その為に、七緒は歌い続けなさい。
それが、百妖家で過ごしている私に泡魚飛家の頭首だった母様が言った唯一の言葉だった。
歌うことは嫌いではない。歌って周りから褒め讃えられることも嫌いではない。それが好きに変わっていく自分の変化を楽しんでいた。
それほど時間がかからない内に世界でも認められるようになったけれど、その頃にはもう何も感じなくなっていて。
終わらない歌を歌う為という意味がわからなくて。なんの為に、誰の為に歌うのかもわからなかった私は──産声を上げた娘を抱いた。
《十八名家》の次世代を身篭って、出産する為に芸能活動を休止すると決まった時、私は心から安堵した。見えない何かから開放されたような感覚があって、子供が半妖だと決まったわけでもないのに穏やかな日々を過ごしていた。
私の娘は半妖だ。産声でさえ美しい声で奏でる歌に聞こえてくる。
「七緒様、その子は……!」
私が何も言わないせいで焦ったのだろう。出産を手伝ってくれた我が眷属たちを見回して、私は微笑む。
「半妖です」
幼い頃から感じていたこと。芸能界で走り続けてから感じていたこと。すべてが娘の誕生で腑に落ちる。
終わらない歌はこの世にない。それでも母様が歌い続けろと言ったのは、継ぐことで永遠になることを知っていたからだ。
私は母様の娘として。母様はお祖母様の娘として世界から注目されていた。この子もきっと、私の娘として世界から注目されるだろう。
その歌声を、お祖母様や母様や私が継いできた泡魚飛家の歌姫のすべてと共に世界中の人々に披露する。それが、母様が言った終わらない歌なのだ。
「よ、良かった!」
眷属たちから歓声が上がる。
「貴方! 旧頭首様と渓様に報告を!」
「は、はい!」
我が家はこんな時しか騒がしくならない。私は母様と渓が浮かべる表情を想像してすぐに止める。きっと、産んで当たり前だと思うだろうから。
「七緒さん、名前は決まってるんですか?」
「……いいえ」
「七緒さぁん。子供の名前くらいちゃんと関心と計画性を持って考えた方がいいですよ〜」
「……うるさいですよ」
昔から私を慕ってくれている従妹を睨む。従妹は小さな笑みを浮かべ、助産師に託される娘を視線で追いかけた。
「あの子、七緒さんに似てますね」
「産まれたばかりなのによくわかりますね」
「わかりますよ。だって家族ですから」
半妖じゃないくせに。そう言いたかったけれど腑に落ちた自分がいた。




