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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1996年
25/201

1月1日   相豆院緑

「お待ちください、陣悟じんご様!」


「いーや待たない! 怠いから俺は今年もパス!」


「陣悟様! そのような理由で欠席できるわけないでしょう!」


「なんでだよ! 咲把さわがいればそれがいいだろ!」


 騒がしい声と足音が聞こえてくる。ここは住宅地から遠く離れた閑静な道路で、近くには何もないはずなのに──どうしてそのような音が聞こえてくるのだろう。

 辺りを見回して、その声の持ち主たちがどこにもいないことを確認する。私のように犬の散歩をしているわけではなさそうなその声は、何故かずっと聞こえていて。


「よっ!」


 私はようやく、音の出処に気がついた。


 崖の上から軽々と飛び降りてきたのは、二十代前半に見える青年だった。


「危ねっ!」


 そう言って身を捩った彼のおかげで衝突は免れたが、彼は地面に体をぶつけてごろごろと転がっていく。


「あっ」


 私のせいではないのに彼に傷をつけてしまった。罪悪感が生まれてすぐに駆け寄ろうとするが、よくよく考えたら崖の上には森がある。


 ──森の中に入ってはいけない。


 《十八名家じゅうはちめいか》が町民にそう言い聞かせているから、その禁忌を破った彼は罪人だ。近づかない方がいい、自分の身が大事ならば。


「陣悟様!」


 崖の上から声が降ってきた。彼を追いかけていた数人の──彼よりも年上で厳つそうに見える男たちはさすがに飛び降りてこない。


「大丈夫大丈夫!」


 ぴくりとも動かなかったのにその声が聞こえてきた瞬間に飛び起きた彼は、私に視線を移して「悪かった! 大丈夫か?!」と近づいてきた。


「ひぇ」


 ペットを虎太郎こたろう抱えて一歩足を下げる。罪人であってもなくてもあんな場所から飛び降りて無傷だった人。厳つい人たちから様づけで名前を呼ばれている人。絶対に──普通の人ではない。

 虎太郎が震えている。吠えることもできないほどの恐ろしさを彼から感じているということだ。


「えっ、と……えぇ……と……」


 そんな私たちを見てショックを受けた表情をするのが彼だった。


「……詫びの品を、贈ります」


「陣悟様!? 何を仰っているんですか!?」


「いいから贈れ!」


「はいッ!」


 厳つい男たちを一声で従わせる彼は一体何者なのだろう。


「……えっと、そうだ! 名前! 名前は?!」


「えっ?」


「俺は相豆院そうまいん陣悟! 相豆院家から贈るから!」


「えぇ?!」


 彼は罪人ではない。彼こそが、《十八名家》の人間だったのだ。

 陣悟様は虎太郎のように怯えたような瞳で私を見てくる。陣悟様は雲の上の人だけではなく、変わった人だった。

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