1月25日 オリバー・ダンカン
日本に帰ることはないだろう。父であるイトはずっと俺にそう言っていたが、俺は今、イトの故郷の陽陰町にいる。
イトだけではなく母のセシルもいた。セシルはイトの故郷に来たのは初めてらしく、輝く瞳で辺りを見回している。そんな俺たちダンカン親子を迎えたのが、トメとシキ──俺の伯母と伯父だった。
「久しぶりですね、イト」
「セシルも。よく来たな」
当たり前だが、日本人の二人が話している言語は日本語だ。セシルは日本語がわかるが、俺は日本語を話すこともできなければ書くこともできない。古城では日本語が飛び交う時もあるが、娘のクレアが日本語を話しているところは見たことがなかった。
「姉様、兄様、久しぶり。また会えて──本当に嬉しいよ。ありがとう」
「わたしも嬉しいわ。トメ、シキ、ありがとう」
イトとセシルはトメとの出逢いとシキとの再会を喜んでいる。この町の誰とも関わったことがない俺は、そんな四人を眺めていることしかできなかった。
トメとシキが用意したのは高級そうな車で、そこに俺たち親子を乗せる。
俺たちが暮らしている場所は古城だ。研究に明け暮れていると金が減り、研究結果で金を得ても贅沢をする時間がない。
綿之瀬家で出逢った従姉兄の乙梅と五道を見て、初めて他人を羨んだ。彼らは金もあれば贅沢をする時間もある。俺とは違う輝かしい従姉兄たち。そんな彼らに、俺たちは俺たちのこれまでである研究結果を伝えに来たのだ。
綿之瀬からダンカンに姓を変えたイトが陽陰町に戻る為には色々としなければならないことがあったらしい。
そうまでしてイトとセシル、そしてトメとシキは俺たちの今までを共有したがった。俺は親族というだけで簡単に教えたくはなかったが、曇りのない目をするイトとセシルを見ていたら何も言えなかった。
「おじちゃんだぁれぇ?」
「小町」
「申し訳ございません、五道様……! 小町様、こちらに……!」
「構わないよ。小町、彼は君の従伯叔父母のオリバー君だ」
親子なのだろう。クレアと歳が近そうに見える──多分小町という名の女児はじっと俺を見つめている。
「コンニチハ」
俺は、これを言えればいいとイトから言われていた。小町は「こんちちわ」と返し、使用人らしき人物の元へと駆けていく。
「オリバー、移動しよう」
イトに声をかけられた。どこに、と問うと「病院」と返ってくる。
「朝霧愁晴が待っているからね」
彼の〝クローン人間〟を作る。それが俺たちの来日理由だった。




