4月8日 鬼寺桜天梛
この世には、近づくことさえ烏滸がましいと思ってしまう光がある。私はそんな光と一生関わらない人生を歩むのだと思っていた。近づきたいとさえ思わなかった。近づきたくなかった、のに。
「これからよろしくな、天梛!」
陽陰学園中等部の入学式の日、そう言って私に手を伸ばしたのが鬼寺桜玄石さんだった。
「あっ、えっ、その」
何故そんなことを言われるのかわからない。鬼寺桜さんの後ろの席ってだけなのに、どうして《十八名家》の彼は私にそう言って手を伸ばしてくるのだろう。《十八名家》の人に触れていい人間じゃないのに、どうして屈託なく笑いかけてくるのだろう。
「ほら握手!」
そう言われるような人間でもない。貴方の視界に入りたくないのに。
「玄石、一般人を怖がらせるな」
「あいてっ!」
人の頭を殴ってはいけない。そんな当たり前のことを破ったのは、このクラスのもう一人の《十八名家》の人──泡魚飛渓さんだった。
泡魚飛さんは私に「チンピラに絡まれて怖かったでしょ」と苦笑しながら声をかけるけれど、私にとっては泡魚飛さんと話をすることさえ怖かった。
泡魚飛さんは《十八名家》であり身内にたくさんの歌手がいる人だ。泡魚飛さん自身もボーイソプラノとして世界的に有名だから、こうやって自分の日常で触れるのは怖い。
「渓だって怖がらせてんじゃん」
「おかしいな。玄石ほど悪人面じゃないんだけど」
「俺だってそうだよ!」
「いや玄石は悪人面だよ」
私の席の真横で言い争いを始めた二人をどうすることが正解だったのだろう。私たちのクラスの担任になった人が首御千家の人たちだったからなんとかなったけれど、首御千家や《十八名家》の人でなければ、多分どうすることもできなかった。
鬼寺桜さんは色んな人に同じように声をかけていて、私はほっと息を吐く。私だけじゃなかった。それだけでかなり安心する。私は人と違う道を進むことが嫌い。みんなと同じが良かったから。
けれど、鬼寺桜さんはほとんどの人から私と似たような反応をされていた。鬼寺桜さんだけではなく泡魚飛さんも寂しそうで、他のクラスにいる相豆院陣悟さんは誰とも会話をすることなく一日を終えたらしい。
彼らは、みんなと違う道を進みたくて《十八名家》に生まれたわけではない。
そのことに気づいてしまったら、彼らが雲の上の人だと思えなくなった。彼らも私たちと同じ人間だ。みんなと同じ経験が彼らにもできるように声をかけたのが、始まりだった。




