5月7日 綿之瀬トメ
新緑が美しい季節になって、弟たちが帰ってくるという話を聞いた。あたくしは重たい体を起こし、その日が今日であることを何度も確認して駅の方へと一歩ずつ歩く。
「トメ様! 危険でございます!」
「貴方は大袈裟ですね。……乙梅、そちらに行ってはいけません。あたくしの傍にいるのですよ」
一蹴し、乙梅の手を握り直した。あっという間に歩けるようになった長女の乙梅は、あたくしの手を離してどこかに駆けてしまいそうなほどにお転婆な娘だった。
「トメ様、どうかご無理だけは……」
「しつこいですよ。あたくしは《十八名家》の現頭首、半妖の女です。軟弱な貴方たちと一緒にしないでください」
そんなあたくしの血を引いた乙梅もまた、半妖だった。そして、今お腹の中にいるこの子は乙梅を支える立派な人間になる男だ。
「わたくしは……」
「綿之瀬の血を引く分家でも、貴方たちとあたくしの力の差は明らかなはずですよ」
「……し、失礼いたしました」
「ですから、あたくしの後ろにいなさい」
身重の身でも、家族を守る盾にはなれる。
あたくしは駅前の広場で足を止め、駅から出てくる綿之瀬の血縁者を視界に入れた。
「シキ」
目を見開く。渡英したのはシキとイトの二人なのに、何故今目の前にいる弟は一人だけなのか。
「イトはどうしたのです。まさか……」
「安心してくれ、姉様。イトは向こうに残っただけだ」
「残った?」
「向こうの科学者と必要以上に仲良くなってしまってね。もしかしたらずっと向こうにいるかもしれない」
「……そうですか。それはそれで問題ですが、生きているのなら今は放っておきましょう」
「そんなことより姉様、この子が私の姪の乙梅なのかい?」
「えぇ。イトにも会わせたかったのですけれど」
「そして、この子が五道か」
予定日を来月に控えたあたくしのお腹は、誰が見ても妊婦のそれだった。
「えぇ。無事に生まれてきてくれたら、貴方の甥になる子です」
「甥、ね。六年前は自分が叔父になるなんて思いもしなかったよ」
「六年という月日は貴方が思っている以上に長いのですよ。研究ばかりしていたのですから、あっという間だったでしょう?」
「あぁ、とても充実した日々だったよ」
シキの輝いた表情が眩しい。あたくしが長女じゃなかったら、あたくしが女じゃなかったら──あたくしだって英国に行けたはずなのに。
思いを一人で噛み締めて、あたくしはおもむろに笑みを浮かべた。




