11月1日 間宮宗隆
「……宗隆」
「ん? どうした?」
「……『妖怪駆逐計画』のせいで、妖怪が八条に来る動きがある。……だから、無闇に外に出ないで」
「そんなことを言われても、おれは陰陽師だからなぁ」
間宮家の縁側から見える茂みに潜む、黒々とした濃い瘴気。おれはそれに近づこうとして、式神のオウリュウに止められる。
「……だめ」
「駄目なわけあるか。どうした? なんでそんなところに隠れているんだ?」
「……宗隆」
「出て来いよ、殺したりしないから」
両手を伸ばし、腰に手を回して来るオウリュウを引きずりながら前へと進む。瘴気は、怯えるように茂みの奥へと引っ込んだ。
「……宗隆!」
「よく見ろよオウリュウ。この子が鬼に見えるか?」
「……鬼なの」
「鬼なのか」
鬼には見えない小さな瘴気だ。だが、この子供には自分の意思がある。おれから遠ざかりたいという心を感じる。
おれは視線を上げ、真っ赤に染まった空を見た。おれなんかに怯えているこの子供も殺してしまうようなこの世界だ。そんな世界はおれにとっても幸福ではない。
「来い」
だから鬼に手を伸ばす。
「妖怪だって、幸せに暮らしたいよな」
声が聞こえる清行と共にいるとそう思う。だから共に生きたいと願う。
「──だろ? 紅椿」
目の前にいる鬼が瘴気を消し去る。真っ赤な瞳が印象的な美しい女は、やはりおれに怯えていた。
「……宗隆! 名前で縛ったの?! 鬼を?! ねぇっ!」
「あいてっ、オウリュウ! 叩くな叩くな……ほら、紅椿が逃げるだろ?」
「……むっ……ここまで来たら、逃がしちゃだめ。絶対に鬼を捕まえて」
「おうよ。来いって紅椿」
当然お互いに敵意はない。怒るオウリュウを遠ざけて、真っ赤な髪を引きずる女を一人で待つ。
「よく来たな、紅椿」
たくさん彼女の名前を呼んだ。それが自分の名前だと教えるように。
紅椿は顔を上げ、不思議そうに口を開いた。
「おれは間宮宗隆。陰陽師だ」
紅椿は口を閉ざした。唇も、目元でさえ真っ赤に彩られている。名前の通り真っ赤な女だと思った。そういうところが美しいと思った。
「一人なんだろ? うちに来い。飯出してやるから」
腰が上がる。
「腹いっぱい食わせてやるから」
飯に釣られるのは人間も鬼も同じなのか。額から伸びた二本の角は紅椿が鬼であることを表している。
それでも、共に手を取って歩んで行ける。そんな未来があるとおれは心から信じている。