2月18日 芽童神八千代
陽陰町を襲う鬼を倒すことができるのは、半妖である《十八名家》の姉妹たちと陰陽師だけ。その中の一人が僕と同じ生徒会役員の結希君だった。結希君が全員一度は《十八名家》の王になったことがある僕たちの王だった。
僕たち陽陰学園生徒会執行部の別名は、《百鬼夜行迎撃部隊》。百鬼夜行が起きた時、陰陽師と半妖とは別の立場で百鬼夜行を撃退することが本来の仕事。
半妖の総大将のヒナちゃんも、半妖の裏切り者だった亜紅里ちゃんも、《伝説の巫女》の明日菜ちゃんも、土地神の風丸君も戦っている。
だから僕も芽童神家の現頭首として彼らと肩を並べて戦いたい、僕も生徒会役員の一人だから──僕は今、陽陰学園の傍の森を《十八名家》の人たちと走っていた。
本家も分家も関係ない。戦いたいと名乗り出てくれたほとんどの《十八名家》の家の人たちがここにいて、彼ら全員が僕を頼ってくれている。
僕が結希君の代わりの王になったわけではない。僕が生徒会役員だからみんなが従ってくれているだけ。それでも僕が結希の代わりのようなものだから──僕は拡声器を口元に当ててみんなに指示を出した。
陽陰町を襲う鬼を倒すことができるのは半妖と陰陽師だけ。でも、半妖と陰陽師のほとんどはこの町にいなくて、戦える陰陽師は結希君を含めた三人だけらしくて。
今この瞬間に妖怪に襲われて全滅するかもしれない、そんな状況だったけれど、世の為人の為に生きる《十八名家》の僕たちは必ず彼らが倒してくれると信じてここにいる。半妖と陰陽師と同じ重さの命を懸けている。散ってしまっても構わないから、危険を冒してまで分散した。
「明彦さん! もっと南です!」
明彦さんを含めた《十八名家》の人たちが持っているのは、布を結んで作った巨大な紐だ。布自体はそれほど丈夫じゃないけれど、結び方は陽陰町に古くから伝わる伝統的な結び方だからそう簡単には解けさせない。
僕たちはこの紐を鬼を引っ掛ける罠としてここにかけるから──結希君。ヒナちゃん。亜紅里ちゃん。明日菜ちゃん。風丸君。必ず鬼を倒してこの町を救って。
ここは、僕たちが生まれてここまで育ててくれた町。
この町で採れた食べ物を食べて、色んな人たちに支えてもらって初めて僕たちは《十八名家》としてここに在れるから、その恩返しとしてすべてを捧げる。
ただ、生きたいという気持ちはあるから。なるべく頑張って生き残るから、すべてが終わった後の世界で僕はみんなに会えるかな。