2月1日 殺卑孤
『アグリハワタシノ〝ウツワ〟、ワタシノ〝モノ〟、オマエラノ〝モノ〟デハナイ』
だから絶対に渡さない。私を殺そうとしている者たちと、妖目熾夏と妖目明日菜は必ず殺す。そうして何もかも終わりにしよう。
瞬間に瘴気が消えていった。消したのは、古き陰陽師の術を唱えた結希だった。
『オマエッ!』
余計なことをするな。やはり結希は危険だ、こんなにも邪魔をしてくるならば──
「俺は、間宮と芦屋の血を継ぐ陰陽師だ」
──産まれた時に殺しておけば良かった。
「呪うなら、母さんと父さんを殺さなかった自分を呪えよ」
結希の言う通りだから腹が立つ。初めて会った時から今日までずっと、朝日と雅臣を大した陰陽師ではないと思っていた自分が憎い。
「臨・兵・闘・者・皆──」
優勢だったはずなのに、何故か劣勢になっているような気がして逃げる。逃げることは得意だ、逃げて生き延びれば、また今日のようにチャンスが巡ってくる。
「逃がすかぁっ!」
瞬間、何者かの回し蹴りをまともに食らった。
「──陣・裂・在・前ッ!」
世界が暗転する。結希の九字もまともに食らってしまったせいで、私から亜紅里の意識が離れる。
だが、真っ暗な意識だけの世界でごろごろと転がっていった亜紅里を再び喰らえば何もかもが元通りになるから──私は嗤った。何もかも無意味、私に勝つなんて誰にもできやしないから。
亜紅里が一瞬で握り締めたのは、見たことがない刀だった。
私は覚醒したことがない。だから覚醒した半妖の力を知らないが、頼から亜紅里になれば知ることができる。
「あぁぁぁぁあああっ!!」
額に当たったのはその刀の切っ先だった。亜紅里には私を殺したいという願いがあるからか、全身だった。だが、私には亜紅里を喰らいたいという願いしかないからか、頭部のみだった。
ここは私の世界だから、再生しようと思えば簡単に再生することができる。だが、まただ。また結希が私の邪魔をする。体が再生できずに、真っ二つに斬れて──もう二度と再生できなくなって、この世界に存在することもできなくなる。
何故。すべてが思い通りだったのに、何故上手くいかなかったんだ。
──あぁ、思い出した。最初の想定外は、結希が雅臣ではなく朝日に引き取られたことで。朝日が町外調査をする際に預けられた場所が雅臣のところでも結城家でもなく百妖家だったことを。
始まりはすべて結希だった。結希を手に入れることができていたら、私は絶対に負けなかったのに。