1月1日 泡魚飛渓
姉様が亡くなったその日から、俺の人生は簡単に狂った。
姉様が亡くなったせいで空いたのは泡魚飛家の現頭首の座と芸能事務所の社長の座で。その座に座ることが現状最も相応しいとされたのが、弟の俺だった。
《十八名家》は女系だ。泡魚飛家に必要な半妖は母様と姉様、そして姉様の娘だから、男である俺は現頭首にはなれないのだとずっとずっと言われていた。
俺は、姉様たちには申し訳ないがそんな立場で良かったと思っていた。だが、百鬼夜行で母様と姉様が亡くなったから、一生縁のないものだと思っていた責任がすべて俺の双肩に伸し掛った。
俺は罰が当たったのだと思った。
泡魚飛家に産まれた半妖たちは皆、世界的に有名なアーティストになれるほどの実力を持っている。母様も姉様もそうだったから、姉様の娘には世界で活躍してほしいという一族の期待が寄せられている。
俺は男だが、子供時代にボーイソプラノとして世界で活躍した。他の泡魚飛家の男と比べたら褒められるようなことをしたのだ、だからこれで充分だろうと、これからは泡魚飛家の分家として慎ましく生きるのだと、思っていたから罰が当たったのだ。
泡魚飛家の半妖の弟として産まれたならば、《十八名家》の人間として産まれたならば、その命を燃やせと言われているようだった。
それが嫌で嫌で堪らなかった。早く終わってくれ、そう思った俺の次に現頭首になってくれたのが姉様の娘の一人である和穂で、姉様の跡を継ぐ半妖として産まれた歌七星だった。
「ただいま戻りました。遅れてしまい、申し訳ございません」
初めて新年会に出席する彼女が、泡魚飛家の人間が集う待機部屋に姿を現す。彼女は、どういう運命だったのか最近まで泡魚飛家の人間ではなかったのにアイドルとして活躍している事務所の稼ぎ頭だった。
息子の奏雨や和穂は歌七星と比べると何も成し遂げていない人間だが、歌七星に冷たく当たっている。歌七星はそれを淡々と受け止めており、その様子が自分が壊れないように耐えているように見えてしまって、母様と姉様が今までどういう気持ちだったのかと考えて──辛くなって髪を毟った。
「わたくしは、この家の現頭首泡魚飛歌七星です。彼の傍には、もういてあげられません」
なのに急にはっきりとした声でそう告げるから、俺は久しぶりに歌七星に母様と姉様の面影を見る。
歌七星は間違いなく姉様の娘で、半妖で、現頭首としての器を持って産まれた〝選ばれた人間〟だった。