12月1日 百妖幸茶羽
「しお兄〜! 見て見て! お星さま! つきが折ったんだよ!」
姉さんが折り紙を見せた相手は、居候の紫苑だった。
姉さんは下僕──結希だけではなく紫苑にもすっごく懐いている。けれど、ささは下僕にも紫苑にも心を許していないから。そんな風に色んな人に笑顔を見せている姉さんを遠くから見ていることしかできなくて、苦しかった。
「見たよ見た。だから押しつけんな」
「でね、こっちがツリー! これが合体してクリスマスツリーになるの!」
「んなの見せびらかして何がしたいんだよ……。ガキか」
「ん〜ん! ほめてほしかったのぉ〜! お兄ちゃんならすぐにほめてくれるもん!」
姉さんと紫苑。そして近くにいた下僕も会話に入って話し始める。
下僕は姉さんの頭を撫でていて。姉さんは嬉しそうにそれを受け入れていて。そんな風に素直な姿を見せている姉さんを見ていることも苦しかった。
──不意に、下僕がささのことを見る。
みんなリビングにいるのに、廊下から姉さんたちの様子を見ていたささに唯一気づいてくれた。
「幸茶羽ちゃん」
その上名前まで呼んでくれるから、みんながささの存在に気づく。
「ん? そこで何してるんだ? 幸茶羽」
「ッ! べ、別に」
「何もしないならまり姉のこと見てなさいよ。あの人一人にするのちょっとヤだし」
「なっ、なんでささが! あの人との思い出なんてほとんどないのに! ささにとっては他人なのに!」
ささのことを見ないで。構わないで。放っておいて。
下僕や紫苑がいるこの家を受け入れることができなくて、思い出がない真璃絵のことも拒絶するような気がして、思わず叫ぶ。瞬間、リビングがびっくりするくらいに静かになった。
「ぁ、ぅ……」
言ってはいけないことを言ってしまった。すぐにそのことを理解したから、言葉に詰まる。
嫌だって──叫び出したい言葉はたくさんあるのに、全部こんな風に誰かを傷つけてしまうような気がして怖くなった。この家にとって要らない人間は、下僕でも紫苑でもなくささだった。
「ッ!」
耐えられなくなって廊下を駆け下りる。みんなから名前を呼ばれたけれど、ささはもう立ち止まれなかった。溢れ出してしまった涙を姉さんにも他の誰かにも見せたくなくて、真っ黒なささのことも見てほしくなくて、もう二度と誰の前にも姿を現したくなかったから、家から飛び出しても止まらなかった。
悪いのはささだ。けれど、謝りたくもなくて。
悪い子だから、紫苑が暮らしていたあの家に行こうと思った。