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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2022年
185/201

11月1日  ツクモ

 二週間ほど前に陽陰おういん駅を守っている結界を壊した時、百妖ひゃくおう家の半妖はんようたちに捕らわれたのは紫苑しおん様だった。

 紫苑様はツクモの主君であるはる様の双子の弟で、ツクモも紫苑様とは産まれた時からのつき合いだったから紫苑様がいないと落ち込んでしまう。だから、落ち込んでいる主君を慰めようと思ってもできなかった。その上ツクモは紫苑様の式神しきがみのタマモにも会えなくなってしまったから、ツクモは悲しくて悲しくて仕方がなかった。


 紫苑様はたくさんの人に暴力を振るっている人で、主君にもツクモにも全然優しくない人だけれど、陽陰駅を破壊した瞬間に駆けつけてきた人たちから主君と美歩みほ様を守ったのは紫苑様だ。

 二人を逃がす為にたった一人で彼らを足止めしてくれたから、紫苑様は捕まって主君と美歩様はツクモたちと一緒に任務を終えて逃げることができた。


 主君が落ち込んでいる一番の理由はそれだった。


 主君は元々、紫苑様が高校を停学になったのは自分のせいだと思っている。だから、紫苑様が学校に来れないならばと家にいるようになって、紫苑様に罪滅ぼしをしようとしている最中だった。それが上手くいかなくて、せめて兄らしくいようと藻掻いている最中だった。


 けれど、悲しくなってしまうほどに紫苑様はいつも主君の手の届かないところに行ってしまう。

 小学生の頃に家出して《グレン隊》の隊員になってしまった時もそうだった。《グレン隊》の大将とその参謀が亡くなって解散したから帰ってきてくれたけれど、今回はそんなことにはならないだろう。誰よりも主君がそう思っているからツクモもそう思う。


 芦屋あしや家の縁側で膝を抱えながら啜り泣く主君の傍に座っていると、多翼たいき様が走ってきた。


「春に〜ちゃん! テニスしよ!」


 多翼様は優しい人だから、紫苑様が捕らわれてから毎日主君に色々と声をかけていた。


「バスケは?! サッカーはどう?! やったことないけど!」


 主君も優しい人だから、そんな多翼様を無視しない。


「俺もやったことないし、道具もないでしょ」


 ただ、何を言われても「やる」とは言わなかった。


「そ〜だけどさぁ!」


 多翼様はツクモと主君の間に体を入れて、「春に〜ちゃん悲しそうなんだもん! だから元気出して!」と主君を見上げた。


「そうだね」


 そんな多翼様の視線から逃れようとする。百妖家の半妖たちからツクモたちにまったく協力的じゃなかった紫苑様を救出することは、現実的じゃない。それさえも主君が強く思っていることだった。

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