10月1日 白院・N・スズシロ
「総員、入りなさい」
そう告げたのはスズシロの母様だった。
《十八名家》の本部の宴会場に姿を現したのは今日を境に各家の現頭首となる方々で、その中にはスズシロの姉様もいる。姉様は白院家の現頭首で半妖の総大将でもある人だから、彼らの先頭を歩いていた。
姉様は誰よりも先に母様から冠を載せられて、スズシロたちに向けていた背中をすぐに母様に向けてこちらを見据える。姉様は、現頭首であり総大将に相応しいと思う眼差しをしていた。
「今この瞬間から、貴方たちが十八にも上る名家の頭首です」
姉様はきっと、《十八名家》千年の歴史の中で最も過酷な時代であり最も強力な世代とも言われる時の王となるのだろう。
「……そう。でも、いつまで続くのかしら」
せせら笑ったのは燐火さんだった。姉様は燐火さんを睨んだけれど、この件での一番の被害者は姉様だろう。
「終わらないわよ。エリスが九年も跡取りの存在を隠していたように、大人が黙り続ける限り……ずっとね」
だって、エリカさんの言う通りここに立って現頭首を継がなければならなかった半妖の大半がいないから。
「エリカ、口を慎みなさい」
「トメさん、貴方はいつまで重鎮ぶっているつもりなの? この式も茶番すぎて退屈だわ」
「仁。あの子たちは来ていないようですね」
「ご覧の通りですよ、トメさん。しかし、それを言うべき相手は私ではなく〝彼〟なのでは?」
大人のことを嫌いになりそうだった。姉様ばかりがすべてを背負って、何も背負わないままのうのうと生きている半妖の人たちのせいで。その百妖家の半妖の義兄弟になったばかりの姉様の右腕である結希さんにすべてを擦りつけるせいで。
「違います。スズシロは、それは責任転嫁だと判断します」
嫌いになりたくないから告げる。百妖家の半妖をこの場に引きずり出さなければならなかったのは、結希さんではなく昨日まで百妖家の現頭首だった貴方だと。
「何も違いませんよ。私は、あの家の実情を何一つ知りませんから」
それは無責任だ。百妖家の血を継いでいない結希さんに百妖家に関して背負うものはないはずだから、こんなことになる前も、なった後も、百妖家の半妖を放置し続ける仁さんをスズシロは許さない。
仁さんがもっとちゃんとしていたら、姉様は今、たくさんの半妖に囲まれて心強かっただろうに。結希さんは肩身の狭い思いをしなくて済んだだろうに。
仁さんがしたことは、百妖家の半妖以外誰も幸せにならないことだった。