9月29日 神城千里
私の誕生日を祝ってくれる人はお父さんだけ。そんな人を増やす努力を一切してこなかったからずっとそう思って生きてきたけれど、今年は違うと春の頃から思っていた。
誕生日は、その日を祝ってくれる人が一人しかいない私にとっても特別な日だ。一人しかいないのだから覚えていても仕方がない、そう思って忘れようとしても忘れることができなかったのが私で、毎年九月に入ったら今日という日をどうしようもないくらい毎日毎日楽しみにしていた。
当日はお父さんだけにしか祝われなくても──私の誕生日を知っている人がお父さんだけでも、誕生日プレゼントをくれる人もお父さんだけでも、私は毎年幸せだった。
「──お誕生日おめでとうございます、千里ちゃん!」
涙が溢れてきたのは、幸せが溢れてきたからだ。
私からは何も言っていないし何かを言われたわけでもないけれど、わくわくしながら式神の家に足を運んだ私にそう言ってくれたのはスザクちゃんで──彼女は私を産んで亡くなってしまったお母さんの後を継いだ子だから、余計に嬉しい。
私が産まれてきたせいでお母さんが死んでしまった。そう考えなかった日がなかったと言えば嘘になるから、スザクちゃんの祝福は私の心を温めた。
「おめでとー! 本当に本当におめでとー!」
抱き締めてくれたのはビャッコくんで、スザクちゃんとビャッコくんの背後に立って微笑んでいるのがセイリュウさんで、座布団に座って私を見上げていたのがゲンブさん。ここには間宮家の式神全員が揃っていて──そのこともとても嬉しかった。
「お誕生日おめでとうございます」
セイリュウさんもそう告げてくれる。ゲンブさんの目の前に置かれているのは誕生日ケーキで、見た目が美しいそれは多分セイリュウさんが作ってくれたケーキだった。
「ずっと、そう言えなくてすみません」
最高の誕生日だ、そう思う私にさらに幸せを与えてくれるセイリュウさんは私に掌サイズの箱を差し出す。
「……え」
「私たちからの誕生日プレゼントです。本当は十七年分のプレゼントを渡したかったんですけど」
「そ、そんな! 一つでも充分……というかなくても私はすっごく嬉しいです!」
「千里、貴方はもう少し欲張ることを覚えた方がいいですよ」
それは、眉を下げながらも微笑むセイリュウさんもだと思ったけれど言わないでおこう。
「──はい。ありがとうございます」
受け取って、ありったけの感謝を告げる。
この世界に産まれて本当に良かった。